幹部連中の連行が済むと同時に自身の順番が巡って来たと認識したレオンハルトはリュユージュを暫し仰視した後、言葉を発した。
━━俺の糞みてえな人生の中で、今日が最高の日になったよ。あんたのお陰でな。逆にあんたの顔には、今日は一番最悪な日だって書いてあるぜ?
「衝撃的だったよ。表情から感情を読み取られるのなんて、ヒルデくらいにしかされた事なかったからね。レオンの言ってる事、強ち間違いでもなかったんだ。」
━━残念。僕にとっての人生最悪の日は、昨日だったよ。今日はまだマシだ。
その言葉を聞いたレオンハルトは琥珀色の瞳を僅かに揺るがせはしたものの、縛られた両足で器用に体勢を跪座に変えると、斬首されるべく額を甲板に付け己の命を差し出して来たのだ。
「レオンの項を目にした瞬間、僕は率直にこう思ったんだ。」
一呼吸置いて、リュユージュは声を低くした。
「『価値がねえ糞みたいな人生だってんなら、そんな命(モン)は捨てちまえ』ってな。」
普段は乱暴な物言いをしないリュユージュにしては、珍しい語調。それ程にまで、彼はレオンハルトの態度に対して激昂を覚えたのだ。
「それはまた随分な言い草だな…。罪人だから、簡単に殺害しても構わないってか?」
若干の憤りを含んだ口調のマクシムに対して、意味合いが違う、と、リュユージュは首を横に振った。
「生きたがっている者を殺すのと同じで、死にたがっている者を生かすのも、充分な裁きになる。それを将軍には『命を弄ぶ様な真似をするな』と叱られたけど、そうじゃないんだよ。僕がレオンを処刑しなかったのは、贖罪の為だ。」
「贖罪…ね。お前の狙いは、つまりは生かして償わせるって事か。」
此処でリュユージュはマクシムに視線を移して、問い掛けた。
「君は、行動には意識を持っているでしょう?理念、信条、目的、そういったものを。」
「ああ。まあ、そりゃあな。」
マクシムは頷いて、彼の言葉を肯定する。
「俺がキャンベル海軍に入隊したのだって、推定無罪の可能性を━━その罪を犯さなければならない理由がある人間がいるっつー事を、世間に知って欲しかったからだ。」
「レオンには、そういうものが一切なかった。殺人に信念がある訳でもなければ、かと言って快楽を感じている訳でもない。獣が食うのと同じだ。ただ、生きる為の行為の一つに過ぎない。」
「しかし、それだと矛盾してねえ?お前、『要らない命なんか捨てちまえ』って言ったじゃねえか。」
リュユージュは再び、首を横に振った。
「僕が必要ないと思ったのは、生を肯定できないからこそ死を軽んじる、“アンバー”の存在だよ。」
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