『Rasanz(ラザンツ)』。
ヴェラクルース神使一族ルード家嫡子リュユージュを最高総司令官とする、外征専門の国防特殊戦闘海兵部隊━━その通称である。
意味は、『神速』。
「っつー訳で、ラザンツには他の軍隊には類を見ない最大の特徴があるんだそうだ。その任務には、本国、つまりキャンベル王国の防衛は含まれないらしいぜ。」
「ほう、新設された軍隊とはな。しかし偉そうに語る割りには、そうだだの、らしいだの。貴様、本当は内情に詳しくはないのではないか?」
口を挟むロザーナに対し、ヘルガヒルデは答えた。
「そりゃあそうさ。ラザンツは十字軍とも王国軍とも、全くの別動だからな。在軍時の君の概論をほぼ完全に採用したと聞いたが、どうだい?レオン君。」
「ええ、元帥殿の仰る通りです。」
レオンハルトは彼女の言葉を肯定する。
「派生或いは配下となると後援は期待出来ますが責任問題が発生する為、必然的に行動が制限されます。それでは、外征専門の意味が激減してしまいます。」
外征専門とはつまり、味方からの援護が全く期待出来ない地区への上陸策戦、明言してしまえばバレンティナ本土での戦闘を主な任務とする予定だ。
心身共に屈強でなければ勤まらない任務の為、隊員は徴兵制度ではなく志願制度をレオンハルトは推奨したのだ。
彼は、その件について質問した。
「この様な特殊な事情を踏まえ、自分は徴兵制度ではなく志願制度を提案しました。この短期間に、組織の機能に必要な数の兵が全ての訓練を終えたのですか?」
「いや。確か、半数以上が海軍からの徴兵みたいだよ。ヴィンスがそう言っていた。状況が逼迫した今、仕方ねえ事なんじゃねえの?知らんけど。」
「正直に申しますと、当時の自分はただ世間話の範囲内で、夢想を語っていただけにございます。」
レオンハルトは暗澹たる表情で更に説明を続ける。
「国防軍の結成は机上の空論に過ぎません。簡単に実現が成されない最大の理由、それはあなた様も良くご存知でありましょう、元帥殿…!」
「そりゃあねえ。でもさ、得手不得手なんて誰にでもあんだろ?大将に出来ねえ事があんなら、補佐がやりゃあいいじゃねえか。」
「伏侍や助勢の体制でどうにかなる問題ではございません!解決方法がない故、国防軍の結成は白紙に戻させたはずです!」
そう困惑を示すレオンハルトの耳に、廊下から軍靴で無遠慮に床板を踏み鳴らすけたたましい音が届いた。
がちゃりとドアノブが回され軋む音を立てながら開かれた扉の向こうより、現れ出たのは。
「うィーっす。」
「いや、狭いから来んな。つーか、手前は存在自体が鬱陶しいんだよ。」
「俺の扱い酷ェな、おい!?」
ヘルガヒルデに冷遇される、ヴィンスだった。
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