「それは…、私じゃないわ。祖父がした事よ。」
「ああ。それでも、だ。」
視線を外して俯くベネディクトに対し、ヘルガヒルデは表情を和らげて微かに笑んだ。
終戦直後。ルーヴィンとベネディクトの祖父であるジークフリートは、非常に難儀な選択を覇王ダーヴィッドに迫られた。
当時クロイツァーの従属血族の数は実に百以上にも及んでいたのだが、それを精選せよとの命令が下されたのだ。
十字軍の成り立ちは、布教活動を円滑に行う為に血族の精鋭が結集された事に由来する。故に現在でも、十字軍には末裔が多数在籍しているのだ。
ダーヴィッドとて、従順なジークフリートに対して残酷な対応はしなかった。選考に漏れた血族を迫害する様な事は決してせず、彼等に課せられた運命は、純血の子供を残す事を禁じられたのみであった。
古来より筆頭従家として名を馳せていたキアストス家については、満場一致で直ぐに議決された。
問題は、その後だ。
何日もの間、様々な意見が飛び交い、話し合いは混乱を極めた。険悪な雰囲気が続く。
ジークフリートですら、不戦敗を申し入れた己の決断が間違いであったかと自責の念が頭をもたげ始めた頃。議会に唯の一度も参加をしていない一家の存在に、気が付いたのだ。
それが紛れもない、ルード家である。
ジークフリートは自ら、彼等の元に足を運んだ。其処で当時の当主、つまりリュユージュの曾祖父に言われた言葉は。
━━いくら神に祈ったって、命有るものはいつか死ぬのさ。ただそれだけの事なのに、君達は難儀しているねえ。
「俺、自分だったらこんな性格の奴は絶対に選ばないだろうなあっていつも思うよ。」
彼女は自嘲気味に苦笑する。
「だから俺等(ウチ)はただ、たまたま運が良かっただけなんだ。手前等のご機嫌次第で、どうにでもされちまうんだからな。」
「そ、そんな事は━━…、」
抗言しようとするベネディクトを、ヘルガヒルデは遮った。
「俺、これでも大概の事は飲み込む覚悟で捧げて来た。祖父母も両親も、そうして来たようにな。」
リュユージュの意志を無視した、長年に及ぶ過剰な薬剤投与。それは彼女の言う、『大概の事』には含まれないのだろう。
「手前等は利害が一致してんだよ。だから、敢えて敵対はしねえ。だが、命令には従わん。」
ヘルガヒルデは踵を返すと、扉へと歩を進める。
「いいか、覚えておけよ?俺、やられた事は倍にしてやり返す性質(タチ)だからな。」
彼女は途中、ぴたりと足を止めた。そして背後を振り返る事なく、左腕を真っ直ぐ伸ばして拳を肩の高さに上げた。
ベネディクトはその動作に注視する。
「言っただろ?地獄で後悔しろ、とな。」
言葉と同時に拇指を下に突き出し、侮辱のハンドサインを示した。
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