「はッ、こりゃ確かに狭ェや。」
元々が非常に大柄なヴィンスは、窮屈そうに扉を抜けた。その背後から、彼を此処まで案内して来たであろう先程軍馬と同行していた若い隊員が続く。
ヴィンスは一通り室内の全員を一瞥した後、苦笑気味にレオンハルトに声を掛けた。
「そう怖ェ顔して睨むなって、久々の再会だってのによォ。言うて、マトモに面ァ突き付けんのはお互い初めてだべや。」
「ゼルク…!」
レオンハルトの立場からはヴィンスは未だ海上保安官当時の印象の方が強く、旧姓で彼を呼んだ。
「それにしたってテメェ、一介の海賊から十字軍の親衛隊、そんで海兵隊の参謀長たァ、大した成り上がり者じゃねェの。」
ヴィンスの言葉を聞き、レオンハルトは激昂した。
「参謀長だと!?何の話しだ!?適当な事を抜かしてんじゃねえぞ!!勝手に巻き込みやがって!!」
彼は怒鳴りながらバルヒェットやロザーナを退けてヴィンスの目前まで歩み出ると、感情を剥き出しにして胸倉に掴み掛かかった。
「何で割を食わされなきゃなんねえんだ!?外征はてめえらだけでやれよ!!ここまで無能な連中だとは思わなかったぜ、恥ずかしくねえのか!?」
「まあまあ。ちょい待ち、レオン君。」
レオンハルトの背後からヘルガヒルデが声を掛け、彼の言動を制止する。
「いいかい?近々正式に、全世界に向けてラザンツの発足が公表される。君がいくら今ここで駄々を捏ねようとも、もう既に決定された事なんだ。そうでなければ、元帥の俺と提督の彼が出向く理由にならないよ。」
彼女は腰を掛けていたベッドから立ち上がると翡翠色の瞳を細めて顎を上げ、意味を含む笑みを見せた。
「この俺様が何の為にプエルトまでわざわざ足を運んだと思ってるんだい?ラザンツの双頭たる君を探し出す事こそ、大本命の用件さ。」
そして射抜く様な鋭い視線を向けると、決然とした声遣で厳命を下した。
「ヴェラクルース神使軍 元帥 ヘルガヒルデ・ルードより、第二隊副隊長 レオンハルト・カイザーに告ぐ!キャンベル王国国防軍『ラザンツ』、最高総司令官を担う我が息男リュユージュ・ルードの正規代理人として、貴公を参謀総長に任命する!」
━━俺に出来る事は…、たった一つだけだ。
既に諦観の念しか抱いていないレオンハルトは、抗拒の意志をヘルガヒルデに応諾させる為に口を開いた。
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W.A