「迷惑をかけたな。」

ドラクールは懐から小銭を出し、それを少女に手渡した。

「何だい、これっぽっちか。」

「悪いが、こっちも物入りなんでな。」

少女は不満そうに、窪んだ眼で隣に立つリサを睨み付けた。彼女に緊張が走る。

「一体、何だっての?」

だが少女はすぐ視線をドラクールに戻し、纏わり付く様にその腕に触れた。

「あんたには関係ない。」

彼は瞬時にそれを振り払い、リサとハクに目配せをすると歩を早めた。

背後からは不愉快そうな舌打ちが聞こえて来た。



「なに…?あの子。」

リサは怯えた様子で頻りに後ろを気にしている。

「ただの薬物中毒者だ。害はないだろう。」

あれだけのあからさまな敵意を示されても害がないと言う。

貧困や零落だけではない。形成理由は想像より単純ではなかった。

自分達の行き先は極めて異常な場所なのだと、彼女は理解した。






城壁に寄り掛かってたむろしている若い男にドラクールは声を掛けた。

「団長は何処に居る?」

「は?」

軽薄に笑いながら振り向いた一人は、彼の暗黒色の瞳に凝視され、徐々に表情を固くして行った。

「自警団の団長だ。彼は何処に居るかと聞いているんだ。」

痺れを切らして二度同じ質問を繰り返す彼に、少年は余裕なく答えた。

「ゆ、昨夜、漏電があったから…、恐らくそこに。」

少年は震える指でその方向を差し示す。

それに対して謝意も表さずにドラクールは立ち去った。

リサは背中に突き刺さる様な少年達の視線を強く感じていたが、彼に意見する事は出来ずにいた。

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