━━地獄の沙汰も金次第、か。正に適言だな。
ドラクールが部屋から出ると、先程の男が煙草を吸いながら待っていた。
「何だ?」
「何だとはご挨拶だな。お前、一人でここから出られるとでも?」
枠も何もない窓から首を出して地面を見下ろす。
「オイオイ、何階だと思ってるんだ。」
「死ねる高さだな。」
彼は頭を引っ込めた。
「生きて出たいだろう?」
男は指で案内料を示す。
「分かった。」
ドラクールは甘んじてそれを受け入れた。
この男から色々と情報を得られるだろうと判断したからだ。
若干この環境に慣れて来たので改めて観察すると、ヴォーダンの要塞の名の通り、狭い通路の端には大砲や弾丸が無造作に放置されていた。
「しかし凄い建物だな。」
「適当に建てちまったからな。」
男の話しでは、敷地内には凡そ六百もの建物が犇めき合っていると言う。
それは単純に、六百の出入口が存在するという事だ。
━━確かに自力で戻れる気がしない。
「ところでお前、名前は?」
「アルカードだ。」
ドラクールは予め用意しておいた偽名を名乗る。
「あんたは?団長。」
「そのまんまさ。自警団の団長だ。この土地は本物の無法地帯だから、強盗はおろか殺人が発生しても法律は適用されない。だから俺達で警備しているのさ。」
国家や司法、立法、行政。それらを持たぬ者達の暮らしを垣間見た瞬間だった。
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W.A