奇しくも、ルーヴィンもドラクールと同じ時間に同じ格好をしていた。
それも、ほぼ同じ場所で。
ドラクールの部屋を出た、直後。ルーヴィンは酷い目眩に襲われて足元が覚束なくなり、扉一枚を隔てて蹲っていたのだ。
━━酷い瘴気だ。
聖職者であるルーヴィンは、”魔”の気配が不得意である。脂汗に濡れた蟀谷(コメカミ)に、絹糸の様な金髪が張り付く。
━━彼奴は一体、何を連れ込んでいるんだ…。
肩で荒々しく息をし、この悪感が去るのを待つしかない。
━━調べる必要があるな。しかし、どうやって?
ドラクールの思惑通り、ルーヴィンはカーミラを一度とて目撃してはいない。
部屋に残された瘴気に、いつもあてられているだけなのだ。
━━ベネディクトは…。いや、それも酷な話しだ。
家系柄、ルーヴィンは聖職者に。ベネディクトは聖騎士に。
よって彼女も魔物の気配には強くない。
ルーヴィンは暫くその場で考え込んでいたが、国家機密の男の身辺を探れる最適な人物は思い付かなかった。
否。
実は一人だけ、思い付いていた。
だがまさか適用出来る訳もなく、その人物はすぐに打ち消された。
━━ウィルと会わせるぐらいなら、 彼奴の女なぞ放置でいい。
【王女】と【悪魔】の対面だけは避けなければならない。
他の何を差し置いても。
ルーヴィンは心中に固く誓うと、無理矢理に足を前に進め、石工の塔を後にした。
-30-
[←] | [→]
しおりを挟む
目次 表紙
W.A