「隠れてなんかいない。消えた。」
ドラクールは首を横に振り、穏やかな態度で否定した。
「嘘を吐くな。消えただと?私を欺けると思うな!」
尚もルーヴィンは呼吸を乱し、ドラクールに詰問する。
「本当だ。もう、此処にはいない。それよりあんた、どうしたんだ?」
蒼白で脂汗を流しているルーヴィンは、ドラクールの目にも体調が不良なのは明らかだ。
「お前には分からない。分かる訳がない。」
ルーヴィンは力無くそう呟くと、漸く部屋を後にした。
狭く暗い空間に一人、取り残されたドラクール。
まるで当て付けにも思える様な、澄み切った高い青空を彼は目を細めて見ていた。
━━何が分からないって?そりゃそうさ。
俺は昔に拾われて以来、ずっとこの部屋に閉じ込められているんだからな。
今も心の片隅に在る感情。
寂滅しそうな恐怖。
永遠のような悲観。
制限すらない孤独。
日に日にそれらは彼の中で膨張し、次第に侵食を始めて行った。
━━どうして俺は此処にいるんだろう。
当然答えてくれる者もいなければ、ただ話しをするだけの相手すらも彼にはいない。
━━嘘吐きは俺じゃない。
彼はずるずると壁伝いにしゃがみ込むと、膝に額を乗せた。
━━カーミラ。あんただよ。
吐いた溜息の音が、やけに響いた気がした。
━━呼んでも…来ないじゃないか。
ドラクールは瞳を閉じた。より一層の闇が広がる。
それは視界と共に、心中にも。
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