名詮自性



「初耳。」

彼は短く、そうとだけ言った。

「デイ・ルイスの奴隷市場の解放は、我々の目的の一つだった。貴殿には感謝している。」

「勘違いも甚だしい。貴女の為に取った行動ではないし、別に僕は奴隷制度の反対派でも何でもないよ。」

吐き捨てる様な口調で背を向けるリュユージュに対し、ロザーナは尚も言葉を投げ掛ける。

「これは私の独語だが、いずれ大公は正式に宣戦を布告するだろう。」

意外な言葉を聞かされたリュユージュは息を呑むと、再びロザーナを振り返った。

「証拠は?」

「ない。仮にあるとすればそれは、私への信用だろう。」

「馬鹿馬鹿しい。中途半端な情報は、反って混乱を招くだけだ。」

彼の背中は、それ以上の会話を拒否していた。






「行こう。」

リュユージュはドラクールに声を掛けながら、懐中時計を取り出して時間を確認する。







「僕が何で急いでいるか、教えてあげようか?」

理由を特に尋ねた訳でもないのに突然そう振られたロザーナは、目を丸くしてリュユージュの背中を凝視する。

「明日から、摩天城の基礎調査が開始されるんだ。」

彼は背を向けたままだが、ロザーナに重要機密とも言える情報を提供した。仮にこれが露見したとしたら、例えルード家の嫡子と言えども戒告では済まされない内容である。

「僕達十字軍も出動を要請されていて、明朝九時には配置を完了させる予定だ。」

「承知した。」

彼女はその罪の重さを知り、深く頭を垂れた。

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