ゆっくりとした瞬きを終えたリュユージュは、微かな溜息を吐く。
「僕が焦っているのは認めるよ。とにかく今は、時間がないんだ。」
彼は剣を一旦下げ、ロザーナと向き合った。
ドラクールはリサから退けられた白刃に緊張を解くも、危機に直面している状況には何ら変わりはない。
乱れた黒髪を掻き上げると、リュユージュに向かって歩を進めた。
「おい、時間がないってんなら早くしようぜ。」
「何を。」
「だから、交換条件だ。二度とこいつらに関わらないと約束しろ。」
「断る。」
もうドラクールは、失笑するしかなかった。
「お前、かなり頭悪いだろ。」
「今回が初めての任務失敗かな。」
リュユージュはそう言うと雰囲気を一変させ、その翡翠色の瞳をドラクールに向ける。
しかし彼はリュユージュの放つ殺気より、その後方に立つロザーナの表情が気掛かりで仕方なかった。
━━退け。
彼女の金色の瞳は、ドラクールに強くそう訴え掛けていたのだ。
「なあ、あんた!このチビ止めてくんねェか?絡んで来てんのはこいつの方なんだよ。」
半ば呆れた様な口調で、ドラクールはロザーナにそう話し掛けた。
「可能ならばそうしたい。しかし、無理だ。実は私は以前、彼に挑み、敗れているのでな。」
「そうか、残念だ。」
ドラクールは再び髪を掻き上げると、リュユージュを真正面から見据えた。
「じゃあ、こっちが死ぬかそっちが死ぬか、だな。」
「君は僕の事、全く知らないみたいだね。」
「お前こそ、俺が何者か知らねェだろ。言っておくが、誰にも俺を葬り去る事なんか出来ないぜ。俺、言ったよな。」
ドラクールは俯くと右手で顔を覆い隠し、震える声で言った。
「『悪魔』だ、と。」
指の隙間から覗く彼の瞳は、血色をしていた。
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