突然の襲撃に、ドラクールは声を発する事さえ出来なかった。
彼が何者かの気配に振り返った時には、既に押し倒されて背中を床に叩き付けられていた。そしてそれと同時に、喉仏を圧迫された。
束ねていた長い黒髪は解け、床一面に広がる。
「がは…っ!」
ドラクールは苦痛に歪んだ表情で、腹に跨がるリュユージュを睨んだ。
「お、お前…!?」
「口を閉じろ!!」
リュユージュはそう怒鳴り付けると、更に力を込めた。鞘をしたままの剣で、ドラクールの頸部を加圧する。
更にドラクールは両腕をリュユージュの両膝によって強く押さえ付けられており、全く自由がきかない状態だ。
「ぐう…っ!」
暫くすると呼吸がままならなくなり、彼はその苦しさに唯、悶えるしか出来なかった。
徐々に限界が近付き、意識が遠退き始めて行く。
「おとなしく僕と一緒に帰るんだ。」
「ふざけ…るな…!誰が…!」
ドラクールは歯を食い縛り、必死にそれを繋いだ。
ふと、ドラクールの呼吸が楽になった。リュユージュが離れたのだ。瞬間、彼は目一杯に息を吸い込む。そして激しく噎せ返った。
ドラクールに跨がったままで立ち上がったリュユージュは、床に這い蹲っている彼の頬を軍靴で踏み付けて躙った。それと同時に抜刀する。
「僕、君に『傷を付けるな』とは言われたけど、それ以外は特に何も制約されてないんだよ。」
右手のその白刃は、突然の事態に対処も出来ずに怯えて震えているリサに向けられた。
「や、止め…ろ…!」
ドラクールは肩で大きく息をしながらもリュユージュの足首を掴み、それを必死に制止する。
「君が聖王の元に帰ると誓うなら、僕は誰にも危害を加えない。」
リュユージュの視線は、衝立の向こうで寝息を立てているであろうハクとミサにも向けられた。
「ガイ・マーベリックの子供達は既に指名手配されている。僕は令状を持っているから、連行する事も可能なんだ。」
「糞が…!!」
「何でもいいよ。どうするの?」
リュユージュは掴まれた足首を乱暴に振って払うと、ドラクールに選択を迫った。
-262-
[←] | [→]
しおりを挟む
目次 表紙
W.A