「生命十字の耳飾りね?」
見ずとも、ベネディクトはリュユージュの存在を確かに感じた。
彼女は顔に掛かかった金色の髪を掻き上げると、クラウスに命令を下した。
「第十隊から第十九隊、敵軍の拿捕に務めよ。第二十隊から第五十隊、国民及び負傷者の救出を。第二隊は隊長脱出援護に尽力せよ。以上、最速で進軍準備を!」
「はっ!」
彼はベネディクトに敬礼し、詰所を後にした。
「失礼。」
その直後、クラウスと入れ違いでルーヴィンが姿を現した。
朝方にも関わらず、彼は礼儀に失した身嗜みではなかった。一切の乱れもない法衣に身を包み、長い金髪は丁寧に一つに束ねられていた。
アンジェリカは無意識のうちに、恋人が崇拝して止まない世界宗教の宗主を凝視する。
ルーヴィンはその視線に気が付いた。しかしアンジェリカに一瞥をくれただけで全く気にも留めず、真っ直ぐベネディクトへと歩み寄った。
「何事だ?」
ベネディクトが状況の説明をしようと口を開こうとした時、今度は門衛が忙しなく詰所の扉を叩いた。
「リュユージュ閣下が御帰還されました!」
「あら。」
「帰還だと?一体、何処から帰還したと言うんだ。」
ルーヴィンは訝しそうに眉を顰めた。
門衛は詰所の扉を開いたまま、リュユージュが室内に入るのを待っている。
しかしリュユージュは、扉の外で膝を折った。床に付けられた左手の拳からは、未だ鮮血が滴り落ちている。
「入れ。」
「汚れて居りますので、此方にて失礼致します。」
「入れと言っている。」
「不浄の身体故、お許しを。」
リュユージュは深く頭を下げたまま、ルーヴィンに言葉を返す。
リュユージュに向かおうとするルーヴィンを制止するかの様に、ベネディクトは報告を促した。
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