門衛にも敬礼をすると、ベネディクトの部下達は軍営の外へと出た。
「ふう…。」
それと同時に、最後尾の若い隊員が大きく息を吐いた。
「緊張したか?」
先頭を歩いているクラウスと言う名の白髪交じりの頭髪の将官が、隊員の方を振り返り碧玉色の瞳を向けた。
「はい、それはもう。まだ膝が震えています。」
わななく体を鎮めようと、彼はもう一度深く呼吸をした。
「それにしても何故、将軍は恩賜の品を開封もせず納めてしまったのでしょうね。」
もう一人の隊員がクラウスに話し掛ける。
「うむ…。我々の了見が及ぶ様な事情ではあるまい。」
「受け取りたくなかったのでしょうか。」
「そうかもしれんな。」
「やはり、恨んでおいでなのでしょうか。」
「…口を慎め。」
「キャンベルに滅ぼされた一族の末裔として━━…、」
「口を慎めと言っているだろう!」
クラウスは声を荒げ、怒鳴り付けた。
「も、申し訳ありません!」
隊員はあまりにも軽率な言葉だったと、自責の念に駆られた。
無言のクラウスは眉間に皺を寄せ、碧玉色の瞳でじっと彼を睨み付けている。
隊員は強張った表情で訓告を待った。
しかし、苦悶に満ちた表情のクラウスからは隊員が予想もしていなかった言葉が紡がれた。
「あの御方は復讐などお考えになられる性分ではない。とても思慮深く、慈悲深い御方なのだ。」
低く響く声でクラウスはそう語り、悲し気に目を伏せた。
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