「ベネディクト将軍様。」
書斎に戻った彼女がとある書類を手に取ったのと同時に、扉が叩かれた。
「どうぞ。」
「失礼致します。」
ベネディクトはゆっくりと動き出した扉に視線を移した。
部下達は順番に室内に入り一列に並んで敬礼をすると、恭しく深紅の天鵞絨(ビロウド)に包まれた方形の箱を差し出した。
「フェンヴェルグ聖王より宣賜致しました。」
「そう、御苦労様。置いておいて。」
無関心とも思えるその反応に、彼等は驚きを隠せなかった。
「御覧にならないのですか?」
「結構よ。ああほら、丁度そこが空いているじゃない。」
ベネディクトは鉛筆を持ったままの右手で、壁際にある戸棚を指した。
部下達はどう対処すれば良いのか迷っていた。
中身の分からぬ恩賜の品を、適当に置く訳にはいかない。しかしだからと言って、自分達が開ける訳にもいかない。
「その形状は、恐らく宝冠でしょう。安定している物だから、そのままで大丈夫よ。」
転げ落ちでもしたら大事だ、と、当惑している部下達の雰囲気を察知したのかベネディクトはそう声を掛ける。
その言葉に従い、彼等は正に壊れ物を扱う様にそれを戸棚に収めた。
「お調べ物で御座いますか?」
ベネディクトが手にしているのは、軍用馬の便覧だった。
「ええ。」
「お手伝い出来る事が御座いましたら、何なりと。」
「大丈夫よ。どうも有り難う。」
彼女は笑顔で将官の申し出を断り、自室の扉を閉ざした。
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