顔と名前と、そんな一見すればすぐにわかるような情報は既に持っていた。フィディオ・アルデナ。遠い海の向こうの、素晴らしいストライカー。アメリカで発売されたサッカー情報誌に、でかでかと写真つきで特集を組まれるぐらいに人気が高いらしい。知り合いのストライカーといえばエドガー・バルチナスだけど、彼とはまた違ったストライカーのようだ。姿かたちも、エドガーが大人っぽい割に、アルデナはくりくりとした青い団栗眼で、随分と幼い印象を受けた。だからか、少々上から目線で見てしまっていたのかもしれない。ふと、思った。
 綺麗だねというのが、フィディオ・アルデナと直に話して二言目に聞いた言葉だった。結局、初めて彼の存在を知ってから数年という月日を経て、フットボールフロンティア・インターナショナルが開催されるライオコット島で初めて顔を合わせ、自己紹介して握手を交わした後にいきなり言われてしまったのだ。実際、くすみのない金髪は近所でも美人と有名な母譲りのものだし、顔だちはスクールの女の子たちがハンサムだと騒ぐ父に似ているから、今迄もよく「ハンサムだね」くらいは言われたことがあった。けれど、綺麗だという言葉を使われたことはなかった。
「オレは好きだな、エメラルドグリーンの瞳」
そう言ってアルデナはふふと笑った。そしてサッカーしようか、とボールをオレに見せて、先程とはまた違った、無邪気な笑顔を浮かべた。

 アメリカという大国でも大々的に取り上げられるだけのサッカーセンスがあった。よく似た人物を挙げるとするならば、カズヤか。カズヤはしばらく出身国であるジャパンに戻っていたけど、このFFIが始まる際に戻ってきてくれた。ドモンという心強いDFまで連れてきたのでそれには吃驚したが、オレ達は歓迎した。それだけ、ドモンはいいDFだったからだ。ポン、ポン、軽やかな音でボールがオレとアルデナの間を行き来する。ふとアルデナを見るとにっこりと笑いかけてくるので、イタリアの男は皆こうなのか、と若干苦々しい気持ちを抑えつつパスを出す。すると何を察したのか、ボールを止めてアルデナはオレをじっと見つめた。
「ねえマーク、オレさ。マークのこと初めて見たの、今日じゃないんだ」
もう大分前、と苦笑いを顔に浮かべた後、イタリアのサッカー雑誌でアメリカのジュニア大会の結果を見たのだと言うのだ。オレはアメリカでも有名なチームでキャプテンを務めていて、その時の様子から今回、アメリカ代表ユニコーンのキャプテンを任されたわけだが。そのチームは大体ミケーレの所属するチームとよく当たって、ディランとミケーレ、どちらがより多く入れるかという雰囲気になっていたものだ。
「一昨年優勝しただろう? 優勝カップをディランと持って……あの時初めて知ったんだ」
「奇遇だな、オレもお前を初めて見たのは今日じゃない」
お揃いだね、とアルデナは笑って、ドリブルしながら駆けだした。流石はイタリアの白い流星、足も速い。走りつつもこちらをちらちらと見続けるアルデナに前を見なくてもいいのかと疑問を覚えたが、特に足元が覚束ないわけでもないので、大丈夫そうなのだが。
「最初に見たときから、アメリカには随分と綺麗な男がいるんだなあって関心しちゃってさ。それで、さっき綺麗だって言ったんだ」
「オレは逆に、お前の丸い目を見て、幼い印象を受けたな」
「はは、酷いなマーク。オレだって、マークにも負けないプレイヤーのつもりなんだけどな」
器用なヒールリフトでオレをかわす。舌を巻いていると、アルデナはまた立ち止まって、ふんわりと笑みを浮かべた。
「マーク、オレ英語得意じゃないから教えてほしいんだけど……アイシテルって英語でどうだっけ?」
こいつは性格がいいのか悪いのか。普通中学生ならわかるだろう単語を並べただけのような文法を聞くだなんて、そんな。教えてやりたい親切心と恥ずかしがる羞恥心が一進一退。風が囁くような声で教えてやると、何、と聞き返されてしまった。
「I love youだっ」
若干声が震えるのを感じつつも、オレの勝手なイタリア人男性想像図のように常日頃から囁くような言葉ではないので仕方ないと割り切ってしまう。今度はちゃんと聞こえたのか、アルデナは眩い笑顔であいらぶゆー、ねと復唱した。
「それじゃ、マーク、あいらぶゆー」
ファンの女の子たちにでさえ言われたこのない単語を耳にして、体温が上がるのは慣れていないからってことにしておいてくれないか。


20111008
君と僕さまに提出
大きな声で「あいらぶゆー!!」

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