ウルビダ……いや、もうこの呼び名はよそうか。八神玲名は僕の彼女だ。ああ、英語でいうsheじゃなくてgirl friendの方ね。玲名は簡単にいうと、ツンデレっていうか、ツンツンツンデレってうか、とにかくなかなか素直になってくれないんだよね。
「はあ……」
もう吐く息が白い。まだ10月だっていうのに。今日も大丈夫だろうと高をくくって手袋をしてこなかったのが原因らしい。手が冷たい。マフラーとコートだけが僕をあっためてくれる。
「もう立冬も近いね」
「そうだな」
こうして素っ気ない返事でも、返してくれている。いや、なんとか、素っ気ない返事を返している。
立冬の日には南瓜を食べるんだっけ。それからお風呂に柚子を浮かべて……。黄色いものづくしな日。
「今までありがとう、玲名」
「な、何を急に」
「なんとなく」
玲名はジェネシス計画が始まる前も。ジェネシス計画の駒として、ウルビダになっていても。そして玲名に戻った今も。こうして一緒にいてくれる。それが僕にとって、どれだけ有難かったことか。
「お前は寒さでついに頭までやられてしまったか」
玲名はそういうと、僕の右手を掴んだ。準備周到な玲名は手袋をしていたはず。なのにその左手は手袋に包まれていなかった。
「これを使え」
差し出されたのは玲名の女物の手袋。とはいっても、シンプルなものを好む玲名だから、女物とはわかりにくい。男としては悔しいけど、僕と玲名は手の大きさが同じだ。だからきちんと入った。
「私の手もあまり温かくはないが、人肌な分は温かいだろう」
さっきまで手袋に包まれていたとは思いがたい冷たさだったけど、玲名と手を繋いでいるという事実から、身体中温かくなったんだ。
2010.10.11
ツンデレウル姉と基山。ふたりはなんだかんだで仲よしだと信じている。
精一杯の素直