新novel | ナノ
二階のソファ、向かいのテーブルに足を投げ出して座る男
摂津万里

万里がいるだけでそのソファはどこかのスタジオの機材のようだ
ヘッドホンをして、スマホをいじるその姿だけで米が三杯食べられそうだから困る

ソファの隣にずかずかと進んで入って(むかつくほど長い足はわざとらしく跨いでやった)ソファを横向きに、万里を背もたれにして体を預け座る

なんだこいつみたいな視線を感じないわけではないが、万里をソファの一部と思い込んで無視を決め込む

万里はあえてなのか何も言わずそのままスマホをいじってる

ヘッドホンから漏れ聞こえる音をよく聞いたら、前に私が好きだといったバンドの曲だった
タイトルはなんだったか、万里が側にいるから思い出せない

そう、万里のせいなんだ
私の心がこんなに乱れるのも、全部万里のせいなんだよ

「はあ〜」

ずるずると体をソファに埋めれば、万里の膝枕の完成である
そのまま目線を上にあげれば

ほら、目が合った


「んだよ、構ってほしーならそう言えって」

ヘッドホンを取り、スマホをポイとソファの隅になげ、嫌に口角をあげた万里さん

「構わないでください」

「構ってちゃんは俺以外にやったら嫌われんぞ」

「万里にしかやんないもん」

「はいはい、知ってる知ってる」

けたけた笑いながら私の髪をさらさら撫でてる
じ、と睨むと、んー?言いたいことあんなら言ってみ?と優しい声をかけてくるから、私の心は余計に波立つんだ

「万里って、仲良い人多いよね、至さんとかつむつむとか、天馬とか」

「あー?そうか?普通だろ」

そんなことはどうでもいいことのように、私の髪を意味無さげにただくるくるといじる

「彼女とか作っても放ったらかしにしそう」

「流石にそれはねえと思うけど、
いや、分かんねえな、ガチの彼女とか居たことねえし」

「ガチじゃない彼女ってなんなの…」

「まー、あるだろ、そういうの」

「私はないし、分かんない、そういうの」

「ふーん」

口をへの字に曲げて、眉毛をわざとらしくあげ、いかにも気に障りましたみたいな表情を作る万里

「なに」

「お前、ガチの彼氏とかいたわけ?」

「彼氏はいないけど、本気で好きだった人はいた」

「付き合ってはいねーのな」

「まあ、そうですね」

「振られたん?」

「振られたっていうか、彼女居た。
ていうか古傷えぐらないでくれる?」

なんなのもう、と髪をいじり続けていた万里の手を軽くはたくと、その手をぎゅ、と握られた
痛くない、優しくだけど不思議と逃げることが出来ないくらい強く感じられた

「そういう話、聞きたくねー」

「は、万里から聞いてきたくせに」

「るせー、いいからもう喋んな」

一気に機嫌が悪くなって、手を握ったままスマホをいじりだしてしまった
…そういう態度取られると、期待してしまうんですが

「ねえ万里」

「黙ってろ」

「やきもち?」

からかうように明るく聞いたけど、本音は死ぬほど聞くのが怖かった
てめーになんか妬くかよクソボケ黙ってろって言ったのが聞こえなかったのかようるせえ女
とか言われたら立ち直れない
いや、立ち直れるけどしばらく落ち込んで万里のストーカーをしそうだ、しないけど

とにかくそれくらい勇気がいる質問だったのだ、私にとっては

なのに完全スルーですよ、やるじゃん万里
私の心はズタズタですよ

1人悲しい気持ちになって、いざ明日から万里のストーカーになってやろうと心に決めかけたとき、万里の手が少し汗ばんでることに気付いた

なんだ、この男、緊張してる?

「ねえ万里」

「それ以上喋ったらマジで黙らす」

「手、びしょびしょ」

「言ったからな」

スマホを机の上に放り投げ(がしゃんって音したけど大丈夫か)
空いた手で口を思いっきりふさがれた

「んん!」

「あと5分はこのままな」

「んー!」

足をばたばたさせどうにか魔の手から逃げようと試みるけど、男の力に勝てるわけもなく、手を振りほどけない
当の万里は死ぬほど楽しそうに爆笑してる

こっちは万里の手が唇に当たって気が気じゃないんですけど
自分の手とは違う、ゴツゴツした感触に、早く離してほしくて、ずっとそうしていて欲しくて、頭がぼわぼわする


「はは!おもしれー!これからお前がうるせーときはこうしてやろ」

「んんん」

「お前唇やわらけーな」

「んん!?」

「顔も片手で簡単に覆えるし、肌ぷにっぷに
女みてー」

女だっつの!今までなんだと思ってたんだ
思いっきり睨んでやったら、万里は自分のあごを手のひらで支えるようにしてまじまじと私の顔を覗き込んできた

「なまえって彼女にしたらクソ楽しそうだよな」

「?!」

なんだ、なんだ急に
待って脳の処理が追いつかない
今なんて、彼女?私が?

混乱する私を置いていくように万里は、ま、それはもうちょい楽しんでからでいーか
とか1人納得してる

ぱ、と手を離され、手を引き上げられ起こされる
されるがままの猫みたいな私の頭をさっと撫で

「もうちょい楽しもうぜ、今のカンケイ」

と、意地悪い笑顔を向けた


2018.03/03

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