新novel | ナノ
7月に入ると学校内に笹が用意され、短冊が1人1枚ずつ配られる
1年のときは、当たり障りのないお願いを書いたけど
2年になって真琴と付き合って初めての七夕だ
お願いすることもない気もするが、ずっと仲良くいられますようにとかそういう感じのことを書こうかと思ってる

ちなみに1年のときの遙の願い事は
「サバ一年分」

とだけ書いてあった

真琴の願い事はものすごい高い位置で結ばれていて見ることが出来なかった
(ジャンプして無理やり見ようとしたらめちゃくちゃ慌てた真琴に阻止された)


「あんた、短冊なに書くの?」

「んー…、ずっと一緒にいられますように的な」

「それ書く必要なくない?あんたたちずっと一緒じゃん」

「それはそうだけどさー、書いてみたいじゃん
真琴と一緒にいられますように☆的な乙女的な」

「笑うんだけど」

「いや、笑うなよ」

キャラじゃないじゃんと笑う友達に机の下からキックをかます
生まれた時から一緒で、幼馴染とはいえ付き合いたてのカップルだぞ
少しは浮かれるって


「はー、真琴のパンツほしー」

「じゃあそれ書けば?」

「いや、全然乙女じゃないじゃん
もうおっさんじゃん」

「それを含めて好きって言ってくれてんでしょ?
あんたの彼氏、菩薩かなんか?」

「私もそれちょいちょい思う」

「ていうかそれ本人に言ったらよくない?
すぐくれそう」

「いや、実際に欲しいわけじゃないから
欲しいけど、欲しいくらい好き的な」

「うわ、惚気だしたんだけど」

「ごめん、ごめん」

わざとらしく嫌がる友人に笑って謝る
ふと時計を見ると、もう30分近くもなにを書くか悩んでいた

「ほんと、どう書こう
見られたら死ねる内容は書きたくないんだけど、お願いはしたい」

「いや、悩みすぎでしょ
どうせ橘関連なんだし
いっそ橘真琴とだけ書けば?」

「それいいかもしれない!
乙女感ないけど!」

ペンに手を伸ばしたとき

「なまえいるー?」

と、噂の張本人が教室に顔を出した


「真琴、どしたの?部活は?」

「雷注意報出ちゃったから中止。
一緒に帰ろう」

どうも、と友人に軽く頭を下げる真琴
どうも、と同じように友人が真琴に頭を下げてる
私は本返してから帰るわ、と図書室なんか行ったこともないのに気を使ってくれた

ありがと、とアイコンタクトして
また明日と教室を出た



「短冊、書いてたの?」


当たり前のように1つの傘に入って並んで歩く
いつも大き目の真琴の傘を使うんだけど、やっぱり肩が少し濡れてしまう
…優しいから主に真琴の肩が濡れてしまうんだけどね
傘から少しでも出ようものなら、なまえはすぐ風邪ひくから傘から出ない!
と怒られてしまうから、つい甘えてしまう

「うん、なに書こうか30分近く悩んでた」

「それは結構悩んだね」

クスクスと笑う真琴の肩が当たって私まで笑ってしまう


「真琴は?なに書くの?」

「え?!お、俺?!」

「…なんでそんなに驚くの」

「い、いや、驚いてないよ」

「そこを否定するのは無理あるでしょ
やましいお願い事でも書いたの?」

「出た!なまえのその意地悪い顔!」

「お姉さんに教えてごらん、うん?」

「お姉さんって…同い年だろ」

「いいから!答える!」

「…い、いやだ」

「…短冊、探し出すからいいよ」

「やめて!」

「そういえば去年も教えてくれなかった」

ハルは見せてくれたのに、と睨むと
真琴は気まずそうに目をそらした

「…絶対からかってくるから、教えない」

「からかわないよ!!!」

「俺は知ってる、なまえのその顔は悪だくみしてるときの顔だって」

「…真琴、耳赤いよ
やっぱりハレンチなお願いしたんでしょ」

「しないよ!!」

もう!やめてよ!と顔を思いっきり反らされてしまった
…耳は赤いままだ

「私はねー、真琴くんのパンツくださいって書こうと思ってる」

「パ、パンツ?!Tシャツの次は下着が欲しいの?!」

「今この場でくれてもいいよ」

「そしたら俺が穿くものないだろ!」
「…私の穿く?」


スカートの裾を少しあげて真琴を見ると
女の子がそんなこと言わない!しない!
と猛烈に怒られた

「…本当にそれ、書くの?」

若干疲れた様子で私を見る真琴
でもまんざらでもなさそうだ

「書かないよ、さすがに」

「だよねえ」

ほっと安心して、わざとらしく肩を下げる
その肩に少しぶつかって

「直接言えばくれそうだし」

と言うと

「あげないよ!もらってどうするの!」

とまた怒られた
今日は真琴を疲れさせる日になってしまったようだ
…ちなみに私はとっても楽しい

「ねー、去年なんて書いたの
なまえちゃんにだけこっそり教えて」

「…またその話ー?」

嫌そうに眉毛を下げてる
…また耳が少し赤くなった、分かりやすいやつめ

「私のこと書いたんでしょ」

「…書いてないよ」

「うそつくの、ほんと下手」

「もー、こういうとき幼馴染は…」


はあー、と大きい溜め息をついてついに観念したらしい真琴は
ものすごい小さい声でなにかを言った


「…え?ごめん聞こえなかった」

「もう言ったから、この話おしまい!ね!」

「えー、伝わらないと意味ないじゃんかー」

「いいの!はい!おしまい!」


もう家つくし!雷鳴りそうだし!なまえ雷苦手だろ?
と強引に、うちの玄関前まで背中を押されてしまった

「じゃあ、また明日ね」

「…ん」


じっと真琴を睨むと苦笑して


「いつか、教えるよ」


と頭を撫でてきた


「…ん」

「雷、怖かったら俺の部屋おいで」

「…ん」

「じゃあまたね」

「…真琴」

「ん?」

「ちゅーして」


帰ろうとしていた真琴は振り返って一瞬驚いた顔をして、すぐにおかしそうに笑った
真琴がかがんで顔が近づいてくる

いつもみたいに触れるだけのキスをして、離れるのかと思ったら
キスをしたあと、思いっきり抱きしめられた


「まこ…っ」

「…ずっと一緒にいられますようにって」
「…え?」

「一緒に、いたいんだ、ずっと」

振り絞るような声に、顔を見たくなったけど
ぎゅっと抱きしめられて顔を見ることが出来なかった


「…わたしも、最初そう書こうと思ってた」

「そうなの?なんか嬉しいな
…って最初って?」

「お願いしても、変わらないかなって思って
…ずっと一緒にいるから」

ふっと抱きしめる力が弱まり、真琴の顔を見ると
目を見開いて、真っ赤な顔をしていた

「…なまえっ」


じっと顔を見つめようと思ったらまたすぐ抱きしめられた
すこし、苦しい

「だからいっそ橘真琴って書こうと思って」

「フルネームだけ?!
どんなお願い事なの、それ」


ぎゅっと抱きしめる力が弱まって真琴の笑顔が見られた
私もおかしくなって腕の中で笑い合った


「じゃあ俺もなまえの名前だけにしようかな」

「…もうわけわかんないね」

「…ね」


クスクスと笑いが止まらない
でもそれってきっと

「それくらい、なまえのことが欲しいんだ」


急に真面目な顔になる真琴
反則だ、そんなの


「…なんかやらしー」

「ええ?!そういう意味じゃ!」

「やっぱやらしーお願いだったんじゃ」

「違うってば!」


見つめられて、恥ずかしくてつい茶化してしまった
必死に否定する真琴が面白くて、可愛くて、かっこよくて
やっぱり私にはこの人しかいないと、そう思った


雨はいつの間にかあがっていて、ゴロゴロいっていた雨空は消え
太陽が差し込んでいた

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