新novel | ナノ
相手を間違えた? の続き


寒い、寒い

モコモコのパジャマを着ていても寒いものは寒い
なんとか体を布団から引きずりだす
鏡を見て、軽く髪を整え、モコモコのスリッパを履いて廊下へ出る


私と同じように寒そうに出てくる寮生たち
つい宗介の姿を探すけど、あいにくと見つからなかった

はー、あったかいお茶でも飲もう

食堂へ向かおうとしたら突然お腹に冷たい何かが巻き付いてきた



「っつめた?!」


「あ゛−あったけー」


大きい何かが後ろから覆いかぶさるように私を抱きしめている
何か、とはもう考えるまでもなく宗介なのだが、いきなりの冷たい感触に思考が停止した


「やべーなこれ、癖になりそう」


「…」


「人肌が恋しいとか意味分からなかったがやっと理解できた」


「…」


「おい、生きてるか」


「冷たいでしょうが!ああん?!」


「お、生きてた」


「宗介さんさ!やっていいことと悪いことがあるんじゃないのかな!うん?!」


「それお前が言うか?」


「あーもう冷たい離れてくれる?!」


「断る、まじでやばいから今」


「私のお腹もやばいんだが」


「あったけー」


「聞いてる?聞こえる?私の声!」


「お前太っただろ」


「なんで気付いちゃうかな…、ていうか本当寒い離れて!」


「大丈夫だ」


「いや、何が大丈夫なの」


後ろからがっしり巻き付かれてじたばたしてもほどけない
お腹に回っている手は、だんだんあったかくなってきてる
…その分私のお腹は冷えてきてるけど

必死の抵抗も空しく、宗介はあったけーを連呼しつつ私の頭の上に顎を乗せてる
あったけーという声の振動が頭に伝わって、なんか変な感じだ


「…お前さ」


「なに」


「やわらかいな」


「うるさいな!そんなに体重増えてないよ!」


「いや、そうじゃなくて
なんつーか、全部やわらけえ」


お腹に巻き付いてた手はだんだん上に上がってくる

「ちょっと!何してんの!いい加減に」


「うるせえ、触らせろ」


「ここどこだと思ってる?」


「寮の廊下」


「そう!みんないるからね!」


「食堂にいんだろ」


宗介の言うとおり、寮生の大半はもう食堂に行ってしまって、廊下にいるのは私たちだけだ
だからといって少し歩いた先のドアの向こうが食堂なわけで、すぐ近くにいることは間違いない


「だれか来たらっ」


「こねーよ、メシ食ってんだろ」


「わかんないじゃん」


「っち、ブラしてんのか」


「当たり前っ、ってほんとやめてって!」


ついにブラにまで手が伸びてきて本格的に焦る
こんなかてーもん付けてんのか、とブツブツいいつつ今度は二の腕の方を触られる


「気持ちいいな…」


「…私、ビーズクッションじゃないんだけど」


「比じゃねえくらい気持ちいいぞ、良かったな」


「…喜んでいいの?」


「泣いて喜べ、他の奴に触らせんなよ」


満足したのか、頭の上に乗っていた顎が離れ、のしかかられていた体が離れていく
背中に密着していた宗介の体が離れた途端、なんだかものすごく寒く感じた


「…寒い」


「なんだよ、もう腹触ってねーだろうが」


「…背中はあったかかったの!」


「…あー、俺が離れて寂しいのか?」


意地悪そうな笑みを見せ私をからかう態勢に入る宗介
あー、朝から変なスイッチ押したかもしれない

「寂しくない!もう食堂行くから!」


顔を覗き込んでくる宗介を振り切って食堂に向かおうとしたら後ろから手を引っ張られてまた覆いかぶさられた


「二度寝しよーぜ」

「っちょ、私お腹空いたんだけど」


「俺も空いた」


「じゃあ食堂行こう、あと5歩で到着するよ!」


なんのためにこんな寒い廊下まで出てきたと思ってるんだこの男は
抵抗する私を無理やりUターンさせて、覆いかぶさったまま歩き出す


「それより二度寝の方がいい」


また頭に顎の乗せられ、歩かされる
のそのそと歩いてるから、傍から見たら熊に襲われてる人に見えなくないかもしれない



「一人で二度寝してって
私は空腹を満たしたいんじゃ」


「色気ねーな、うるせーから黙ってろ」


「あー…もう、ほんと」


言い出したら聞かないことは知ってるからもう抵抗するだけ無駄だ
大人しくなった私に、満足そうに「フン」とか鼻を鳴らしてそのまま部屋に連行される

あー、凜ごめん入るよ


「上れ」


ベッドの横についてるはしごを上る
って、


「わしづかまないでくれる?お尻とれるじゃん!」


「やわらけえ」


「いや、感想求めてないから」


はしごを上り切りそうなときにお尻を掴まれ、急いでベッドに転がり込んだ
焦る私を無視して、宗介もはしごを上ってきた


「上るの早くない?」


「足長くてごめんな」


「ものすごくうざい」


「よしよし」


小さい子にするみたいに頭を撫でられる
…嬉しくないぞ、嬉しくない


「寝よーぜ」


俯く私におかしそうに笑って横になる宗介
布団を持ち上げて敷布団をポンポン叩いてる


「…後で絶対凜に怒られる」


「あー…じゃあお前壁際で寝ろ
俺そっちいく」


壁際にいた宗介が私に覆いかぶさるように場所を移動してくる
…なんか今日は覆いかぶさられてばっかりで心臓が痛い

「これで見えねーだろ」

ほらこい、と布団の中に引きづり込まれて、抱き枕状態にされた


「全然動けないんだけど」


「動く必要ねーだろ
それとも動くようなことしてーのか?」

ニヤリと笑う宗介に、全力で首を横に振る


「あーコラ、髪が当たるだろ」


いてえから動かすなと、頭を固定される
そのまま宗介と見つめ合うような体制になってしまった

射貫くようなたれ目に落ち着かない
そんな私が面白いのか喉の奥で笑って、落ち着かせるように
喉と胸の間あたりに私の顔がくるように抱きしめられた


「…最高だな」


「…まあ、悪くない」


「素直じゃねーな」


クツクツと笑って、頭を撫でる宗介

「お前最近、気張り過ぎだろ
少しは休まねえとしんどくなるぞ」


「…知ってたの」


「お前のことだからな」


だから、たまにはいいだろ、もう寝ちまえ
そう呟いて宗介はもう喋らなくなった

部活のこととか勉強のこととか人間関係のこととか
悩んでいたこと気付いてたんだね


「…ありがとう」


「…おう」


宗介の返事を聞き切るまえに、私は寝てしまった

翌日


「おい宗介」


「なんだ」


「ペットは持ち込み禁止だぞ」


「…分かったか」


「思いっきりあいつのスリッパあったからな、詰めが甘すぎんだろ」


「…今度は気を付ける」


「いや!部屋にいれんなっつの!」


「おい凛」


「なんだよ」


「布団があいつの匂いがして眠れなかった」


「…似鳥と部屋変われ」

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -