新novel | ナノ
今日は雨がザーザー降りで、水泳部は体育館内で筋トレやらランニングやらをしてる
私はバスケ部の部長をやってて、部活の時間はいつも真琴と会えないからすごく新鮮だ


6月、梅雨なだけあって湿度が100%とかいう正気の沙汰とは思えない数字を叩き出してる
おかげで体育館内は蒸し風呂状態だ

汗が止まらない、というかもうジャージがびっしょびしょで不快度がはんぱない

それは部活動を行っているみんなが同じ状況で、ゾンビみたいになっている子もいる


「みんな、ちょっと休憩しよう
水分補給してね」


私が部員にそう告げると、待ってましたとばかりに

「はーい!」と元気な返事が返ってきた
ゾンビが一瞬にして女子高生に戻った…


ちらりと水泳部のほうを見ると、同じタイミングで休憩を入れたみたいだ

赤毛の可愛い江ちゃんがみんなにタオルや飲み物を渡している
それを笑顔で受け取る真琴

…私も水分補給しないと


ごくごくとスポドリを飲み干すと少しだけ不快度が減った気がした
汗だくの体は拭けないけど、顔をタオルで拭くとかなりすっきりする
この瞬間は結構好きだ

そういえば真琴も汗だくだったな

もういちど真琴の方を盗み見るとTシャツの裾で顔を拭いている
おへそや鍛えられた腹筋がこんにちはしてる

…これは、最高な光景ですね

Tシャツの色が汗で変わっていて、もうなんというかおいしそう
…自分でも変態だなとは思う、反省はしない


視線に気づいたのか、こちらに大きく手を振る真琴
あー可愛い大型犬、手を振り返すと目をくしゃっとして笑ってる

さっきまでの不快度が一気にゼロになった
ありがとう真琴、マイエンジェル


「そろそろ再開するよー」
「はーい…」

号令をかけるとバスケ部員は女子高生からまたゾンビに逆戻りした
私もなかなかしんどいなあ、まあ今日はマイエンジェルがいるから元気なほうだ

かっこわるいとこ見られたくないし、頑張ろう



「…はい、じゃあ今日はここまで
暑いのにみんなよく頑張ったね
帰るまえに水分補給してね、お疲れ様でした」


「お疲れ様でしたー!」


解散を告げ、部員たちを見送る体育館の鍵は私が持ってるから、水泳部の様子も見なくては


真琴がみんなに何かを話してる
みんなは真面目に真琴の話を聞いてる
…部長らしいなあ


「よし、じゃあ今日は解散
着替えるまえに一応水分補給してね、お疲れ様でした」


…お、私と同じようなことを言ってる
こんな小さなことでもついにやにやしてしまう


解散を告げ、荷物を持とうとしてる真琴に声をかける


「真琴、終わった?鍵閉めても平気?」

「ああ、大丈夫だよ
お疲れ様」


顔の汗をぬぐいながら、にっこりと笑顔を向ける真琴


「…真琴、そのタオルちょうだい」

「ん?拭くの?どうぞ」


なんの疑問も持たずにタオルを渡してくれる真琴
ごめん、拭くんじゃないんだ


顔を拭きつつにおいを嗅ぐ
…当たり前といえば当たり前かもしれないけど石鹸のいいにおいしかしない


「くそう」

「…なにがくそう??」


不思議そうな顔で首をかしげる真琴


「真琴のにおいするかと思ったのに」

「ええ?!それが目的だったの?!」


あ、あんまりにおいかがないで!と焦りまくる真琴
ガン無視してにおいを嗅ぎつつける、許して



「なにやってんだ…先行くぞ」


あきれながら遙が行ってしまった


「僕も着替えるー!なまえちゃん、まこちゃんじゃーねー!」

「僕も行きます、お疲れ様でした」

「真琴先輩、みょうじ先輩、お疲れ様でした!」


3人も遙に続くように更衣室に向かっていった

…真琴のタオルに集中しすぎてみんながいるの完全に忘れてた

「えーっと、なまえ?
そろそろタオルいいかな?」


頬をポリポリかきながら左手を差し出す真琴
質問を無視してその手を握る


「窓閉めないといけないから一緒にきて」

「っちょ、なまえ?!」


驚く真琴を少し強引に引っ張る
顔を見上げると耳が赤くなってる


「真琴ってなんなの、可愛すぎなの?」

「いや、それはなまえの方じゃないの?」

「でたなストレート攻撃」

「…攻撃?」

「上のほうの鍵閉めるの頼んだ」

「あ、ああ、うん」

この状況に戸惑いつつも、手を離さずに鍵を閉めてくれる


「よし全部閉まったね、帰ろっか」

「うん、そうだね
なまえっていつも一人でこうやって片づけしてるの?」

「いや、今日だけだよ
いつもはバレー部とかもいるしね、今日はたまたまバスケ部と水泳部だけだったから」

「そっか、一人なら手伝おうかと思ったけどそれなら大丈夫だね」

「ありがと、真琴
真琴もプールの片付けとかあるんだから、そんなに気を使わないで」

「気を使ってるわけじゃないよ
…なまえと二人になれるかなって思って」


へへ、と照れながら笑う真琴


「…毎日一緒に体育館で部活できればいいのにね」

「…そうだね」

「…私、着替えてくるね
タオル、返す」

「あ、うん
…ああ、いや、なまえのタオルくれるかな」

「うん…うん?!」

「なまえばっかり俺のタオルのにおい嗅ぐのはずるいから、ね?」

「い、いやいやいやずるくないよ!
真琴のタオル返すから!」

勢いよく真琴のタオルを突き出すけど、首を振って受け取ってくれない…
…タオルのにおいを嗅がれるのってこんなに恥ずかしいんですね、ごめん真琴…


首をぶんぶん振って応戦する私に苦笑して真琴は

「もう、しょうがないなあ」

と言って、私を抱きしめるようにして首にかけてあるタオルをしゅるっと取ってしまった


「ちょっ、と!」

「んー…」


すーすーとにおいを嗅ぐ音が聞こえる


「や、やめて!!」

「…」


しばらく無言で嗅ぎ続ける真琴
どうしよう臭くはないはずだけど死ぬほど恥ずかしい
もう更衣室に逃げようかと出入り口に向かおうとしたら
つないだままの手をぐいっと引っ張られた

後ろから抱きしめられるような格好で


「なまえのタオル、石鹸のにおいしかしないね?」

と囁いてきた

お互いの汗でTシャツ同士がくっつくのを感じる
真琴の体が密着しててすごく熱い

「ちょ、真琴離して」

「やだ」


後ろから首筋あたりをすんすんと嗅がれる


「汗、かいてるから!やめて…!」

「…なまえのにおい、いいにおい」

「ちょっと、真琴っ!」


じたばたと暴れる私をやんわりと、だけどほどけないように抱きしめてくる


「…おいしそう」

「え?!なにが、…ひゃっ」


ぺろっと首筋を舐められた
汗かいてるって言ってるのに
ていうかおいしそうってどういうこと…?!

混乱する私にクスッと笑って、抱きしめる腕を緩める真琴


「意地悪しすぎたかな、ごめんね
タオル、交換しようね」

はい、とタオルを交換してそろそろ着替えようか、汗で気持ち悪いしね
と何事もなかったかのように出入り口に向かう真琴


私は全然落ち着けなくて、どきどきが止まらない


「じゃあ、着替え終わったら校門のところでね」

「う、うん」


またね、とさわやかな笑顔で更衣室に入っていった
…どきどきを鎮めるために、水道で顔洗おう


体育館の扉を閉め、鍵を職員室に返し、校門に向かうと真琴だけが待ってくれていた


「あれ、遙は?」

「帰っちゃったみたいだね」

「じゃあ、2人で帰ろっか」

「うん、そうだね」


1つの傘に入って、並んで歩きだす
湿った風が頬を撫でる


「なまえ、また汗かいてるね」

「暑くない?真琴も汗かいてるよ」


真琴の腕をすっと指でなぞると少しの汗が指についた


「っ、…う、うん
今日は湿度100%だって天気予報で言ってたからね、暑く感じるよね」


「ね、気温高くなくても湿度高いと暑いよね」

「…なまえって、自覚なくやってるの?」

「うん?…なにが?」

「…お返し、してあげるよ」


つーっと腕を指で撫で上げられる
ただ指でなぞっただけなのに、ぞくぞくと触れられたところから肌が粟立つ


「…ね?」

「…ごめんなさい」

「あのさ」

「…はい」

「ほかの人にやったらダメだからね」

「…はい
…ま、真琴もさ」

「うん?」

「顔、Tシャツで拭くのやめてほしい
腹筋が見えて、色々やばいから」

「…う、うん
分かった…ごめん」

「Tシャツくれたら許してあげる」

「え?!今日着たTシャツ?!」

「当然」

「む、無理無理!
汗でびしょびしょだし!」


慌てて手を思いっきり振ってる
半分冗談なんだけど、そこまで拒否られると余計欲しくなる


「なんか好きなアイドルの衣装とかを欲しがるオタクの気持ちがすごいよくわかる」

「そ、それ大丈夫?…結構ギリギリのラインじゃない?」

「真琴のTシャツもらうためなら犯罪おかしそう」

「だ、大丈夫じゃなかったね
…でも、俺もなまえのTシャツ欲しいかも」

「……欲しがられるのって、かなり困るね
Tシャツはあきらめる‥‥」

「うん、そうして
…俺も我慢するから」


「…」


「…」


「…今日は暑いね」

「…そうだね、暑いね
そういえば、なまえってちゃんと部長やってるんだね」

「正直自信ないけど、なんとかやってるよ」


苦笑する私に優しい眼差しを向けてくれる

「後輩にシュートのコツとか教えてるの、聞いちゃった
すごく分かりやすかったよ、俺もタメになったもん」

ふふ、と笑う真琴
ありがと、と返すとこちらこそ、とまた笑ってくれた


「…私もね、同じこと思ったんだ
真琴、部長らしいなあって」

「え、そうなの?それは嬉しいなあ」

「あとね、解散するときも同じようなこと言ってたんだよ
水分補給して帰ってねって
当たり前のことを伝えてるんだけど、なんだか嬉しかった」


珍しく素直に自分の気持ちを伝える私に、少し目を見開いて驚いてる
でもすぐ笑顔になって

「俺も、嬉しいよ
同じこと考えて、同じように行動してるんだと思ったら」

「…真琴」

「プールに入れないのは残念だけど、また体育館で部活できるといいな」

「今週はずっと雨だよ」

「…でも少し苦しいな」

「どうして?」

「なまえのTシャツがまた欲しくなる」

「もういい加減Tシャツから離れてくれる?!」

「なまえから言い始めたんだよ?」

「真琴がTシャツびしゃびしゃにしてセクシーだからでしょ!」

「俺のせいなの?!」

「そうだよ!」


こんなくだらない言い争いも、うっとおしい梅雨も
真琴となら、こんなに幸せに変わるんだ

明日の空をきっと君も見ている

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テーマ「人外ファンタジー」
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