新novel | ナノ


昼食は科学準備室かみんなと屋上で食べるかの二択なんだけど
今日は前者だ

由紀はテスト作りに忙しくて、準備室に呼んだくせに全然構ってくれない
名前を呼んでも「なんだ」とか「ああ」とか適当な返事しか返ってこない


「…」


「…」


机に向かう由紀の首に後ろから巻き付いても無視


「…」


「…」


そのままほっぺにすりすりしても無視


「…ひげちょっと痛い」


「…ああ」



…ああってなに、ああって
こないだは髭がいやなら好きなだけ剃ってやるよって言ってくれたのに


「…」


「…」


昼休み終了まであと15分



「…」



「…」


耳を噛んでもまるで反応がない
首筋にキスしても無反応



「…」


「…」


もう、ここにいる意味ないんじゃ…?
てか逆に邪魔してない、私?

いや、そもそも呼んでおいてこの態度はなんなんですか、先生


…教室、戻ろう



「…おい」



首からするりと離れた私に、少し怒ったような声がかかる
怒っていいの、私じゃない?


「なに離れてんだ」



「なにって…、私邪魔かと思って。
…なにも反応ないし」



不貞腐れる私に大きい溜め息をつく由紀
なんかいやな雰囲気になってきたぞ…どうしよう


「お前はここにいればいいんだよ」



「…そんなこと言われてもやることないし…」


ああ、可愛くないこと言ってしまった…
これだから可愛くねえだの、意地っ張りだなとか笑われるんだ…



「さっきまで俺に巻き付いてただろ
昼休み終わるまで巻き付いてりゃいいじゃねえか」



「え、嫌じゃなかったの?
なにも言わないから邪魔だと思ってたのかと…」



「邪魔だと思ってたらそもそもここに呼ばねえよ
いいから、巻き付いてろよ
首がさみいだろ」



「…先生、いま6月ですよ
湿気やばくて寒くないですよ」



「うるせえな、いいから早くしろ
…落ち着かねえだろうが」



「…先生、私がいた方が作業はかどるの?」


「はやくしろ」



「答えてくれなきゃ教室戻る」



「…ッチ」



「戻りますねー」



「あー!もう分かったよ!
…お前が俺の周りチョロチョロしてねえと気になるんだよ
だから早く、こい」



「ふふっ、普通逆じゃない?」


笑いながら首に巻き付く私に由紀はイライラした様子でたばこに火をつけてる
…舌打ちしてるのに、口元、歪んでる


「由紀ってかわいいよね」



「…」



「ちゅーしたくなる」



「…」



また無言モードになってしまった
けど、今度は時間ぎりぎりまで先生に絡みついてあげるよ


「あと10分しかないよ、由紀ちゃん」


「…」


「白衣洗うからあとで取りに来るね」


「…」


「なんかチョコ食べたくなってきたなあ」


「…」



「あ、白髪1本あるよ、抜いてあげる」


「…、いてっ」


「ごめん、っふふ」


「…」


「ひげ、そこまで嫌いじゃないから剃らなくていいよ」


「…」


「由紀ちゃーん、かっこいいねー」


「…」


「あ、予鈴なった、もう行かなきゃ」


「…」


今度こそ首から離れるけど、由紀はなにも言わない
なんだよー、ちょっとくらい返してくれてもいいのに
まあ、一緒にいれて幸せだけどさ…


「じゃ、いくね、せんせ」



「…なまえ」



「なーに?」


「…明日もこい」


「…はーい」



明日はどう絡もうかとか、由紀ちゃん可愛すぎるとか考えてにやにやがとまらない
このまま教室戻れないぞ、どうしてくれる






「あれー、なまえちゃんなんかいいことあった?」


「べつに、ないよ」


「ふーん?」


ニヤニヤこっちを見てくる晃
絶対分かってるくせに、悪趣味なやつだ







授業が終わって、由紀ちゃんによるだるそうなHRが終わって放課後


由紀ちゃんの白衣を取りに準備室のドアをノックしたんだけど反応はなく

あーやっぱり私の話聞いてなかったか、って落ち込みかけた
のだがいつも鍵がかかってるはずのドアはなぜだか開いていた

失礼しまーすと遠慮がちに開けたら中は無人

珍しく鍵をかけ忘れたのかな、あ
でも机の上に白衣が乗ってる


近づいて白衣を取ろうと思ったら白衣の上には購買に売ってるチョコのお菓子


「え、なんで?ってか私の話ちゃんと聞いてたんだ…」


なんだ、あの人
ほんと、なんで私の心わしづかみにするんだ
わざわざ買いにいったのかな?

…いつもより念入りに白衣にアイロンかけてあげよう






翌日の昼休み


「由紀ちゃん由紀ちゃん
昨日、白衣の上に置いてあったチョコ食べちゃったけど良かった?」


「…俺はああいう甘いのは食わねえ」


「私のために買ってくれたの?」


「…それ以外ねーだろ」


「ありがとね、すごい嬉しかったよ」


「…そりゃよかったな」


「超すき!って思った」


「…そうかよ
今日は白髪、抜くんじゃねえぞ」


「あ、結構痛かったんだ?ごめんね
…ヒゲ、ちょっと短くなった?」


「…」


「私の話、ちゃんと聞いてくれてるんだね」


「…耳元でうるせえからな」


「…ありがとね、由紀」


「…おう」


穏やかに笑う由紀の無言の言葉が確かに聞こえた気がした



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