君が居やしない街・冴島Side
アイツが卒業してから半年
今は一年を受け持ち、
少し増えた女子とまだまだあどけない野郎共を束ね
可もなく不可もない毎日を送っている
刺激がないと言えばないし
つまらないこともない
ただ、常に隙間風のような虚しさが心にあって
いつの間にかその隙間が大きくなっていた
理由なんかとうに分かっている
だがそんなものを認めた所でなんになる
ただアイツの未来を縛っちまうだけじゃねえか
俺の意見なんかに左右されずにアイツには自分の思うように生きてほしい
アイツの気持ちには気づいていた
我慢しきれずちょっかいだした事はあるが
最後は担任としての責任だ
なにか言いたげなアイツをわざと無視して無理やり寮生どもに押し付け帰した
何度か電話を掛けようとしちまったが、なんとか通話ボタンを押さずにすんだ
このまま忘れちまえばいい
第一、女に不自由した事のない俺が一人の女を追っ掛けるなんて馬鹿馬鹿しい
俺が俺でなくなりそうだ
しかも未成年だぞ?
客観的に見ておかしいだろ
とまあつまらないプライドと戦う事にうんざりして
頭の遠く奥の方に押しやる日々
アイツなんかもう大学で男の一人や二人引っかけてるだろう
もしかしたらガキまで出来てるかもしれねえ
俺の事なんかとっくに過去の思い出だろう
こんな事を思って頭をかきむしる自分が自分じゃないように感じて嘲笑する
思わず煙草に手がのびるがアイツの「煙草吸いすぎです!」と怒った顔が不意に浮かんできてのばした手を引いた
…俺はどうしてここまでアイツに惹かれたんだ
どうして連絡してこない?
どうして俺の気持ちを確認しないんだ
また堂々巡りする思考を止められず
ソファに体を沈めた
2人が素直になるのはもう少し先の話