新novel | ナノ
朝、けたたましく鳴る目覚ましを手探り叩く。
横の魔王は小さく唸って眉間にしわを寄せている。
腕は私の頭の下に敷いたままで顔だけを背けた。


少しむかついて腕を軽くつねりながら体を起こす。
あ、また唸った。


玄関の新聞とって、コーヒー淹れて、
朝ごはんの用意に弁当作り…。

冴島家にきてから課せられた私の仕事。
最初は朝ごはん作りだけだったはずなのにいつの間にか増えて。

朝が苦手な分、
すごく大変なのに由紀のためだと思うと全然苦じゃないんだよなあ…。


そんなことを思いつつコーヒーとご飯の用意が出来て、
まだ起きない由紀を起こしに行く。


いつも憎たらしいほど気持ちよさそうに寝てるからいたずらしたくなる。
鼻つまんだり、布団から足が出てればくすぐるし、
お腹の上に乗って起こしたこともある。


さて、今日の冴島さんをどう起こそうか。

って、私が起きた時の体勢まま寝てる…。
完全に熟睡ですね、腹立つわ。


投げ出したままの腕にまた頭を預けて寝転んでみる。
ぬくぬくの布団が気持ちいい。



「由紀ー、朝だよ起きろー!」


「んー、後1時間…。」


眉間にしわをよせた顔をこちらに向けて寝返りを打ちながら私を抱きしめる由紀。
熱の篭った由紀の体が巻きついて私まで熱い。


「それじゃ遅刻しちゃうよー、2分だけ待ってあげるから起きて」


「無理だ5分にしろ」


「ええー、せっかくコーヒー淹れたのに」


「…しゃあねえな、起きる」


「やったー」


由紀の腕から抜け出そうとすると腕の力が瞬時に入って動けなくなる。
…定番だなあ、もう。
私だって離れたくないんだから困るよ。



「やっぱあと5分」


「ちーこーくー」


腕をずらそうともがくと、おかしくなったのか由紀が笑って私ごと体を起こす。


「うお、さみい!」


「うわわ、二度寝は駄目だってば!」


体を倒して布団をかけようとする由紀をなんとか止める。
ベッドから降りて由紀の腕をひっぱると観念してずるずると起きてくる。

由紀の背中を押してリビングに行って新聞を渡す。
コーヒーを啜りながら新聞読む姿が様になるんだよなあ、この人。


食事も二人でだらだら済ますのももう恒例で。
食器洗いは帰ってきてから。


二人で歯を磨きながらテレビにコメント。
顔を洗う由紀の背中に水で冷やした手を当てる。

面白い声をあげたあとこっちを見ずに軽いキックを寄こす。
器用な足だ。

仕返しとばかりに私が顔を洗ってると、音も立てず寄ってきて急に尻を揉む。
思わずふぎゃっと言う私に爆笑の由紀。

本当に大人ですか、あんた。


化粧のため洗面台を占領してると、
ファンデーションなんかいらねえやら、眉毛とマスカラだけでいいだろやら
しまいには化粧なんかすんなやら横でぶつぶつ言い出す。

…化粧しないと、色気なくてつまんねえなとかいうくせに。

そんなこんなで由紀は出勤の時間。
今日は校門前でのあいさつ当番らしい。

くそ寒い中なんで挨拶なんかしなきゃいけねえんだよ。
って文句言ってます。頑張れ。

背中を丸めて出て行く由紀を見送ってから休憩しつつ占いを見る。
あ、そういえばホッカイロ買っておいたんだっけ。

渡すタイミングあるかな、とりあえずポッケにいれとこ。


と、ふいにチャイムが鳴る。
テレビを消して玄関に向かう。


「おっす、おはよー!」

扉を開けると佑の笑顔と横向いた亮二と寝そうな零ちゃんとそれを起こす晃と啓ちゃんがいた。

転校してきてから毎朝迎えにきてくれるんだよなー、寮のみんな。


「おはよ、今日も寒いね」


「俺は嬉しいけどな!」


ニカッと笑う犬、じゃなく佑。


「寒いの嬉しいなんてお前くらいだろ」


マフラーに顔を少し埋める亮二。


「零ちゃーん、行くよー起きてー」


「はあ、行くぞ」


「…眠い寒い」


零ちゃんの背中を押しながら歩く晃に呆れる啓ちゃん、目をこする零ちゃん。
この3人もいつも通りで、やりとりを見るたびに笑ってしまう。


そんなこんなで学校へ向かう。
卒業まで、こんな感じだったらいいな。


暖かくなる気持ちとは逆に冷たい風に鳥肌が立つ。
由紀、凍えてないかな。


と、ポッケに入れておいたホッカイロを思い出す。
いまのうちに揉んでおこう。


6人で騒ぎながら通学。
校門に近づくと、朝出て行ったときより背中を丸めてポッケに手を突っ込む由紀が見えた。

やっぱり仕事とはいえ辛そうだ。


ホッカイロ、いつ渡そう。
他の人に見つかったら少し面倒かな、どうしよう。

寮生+私のほかに校門へ向かう生徒は私たちより前を歩く4〜5人くらい。
後ろは、いないみたい…かな。


「おはようございまーす」


「おー、おはよう」


私たちの前を歩く生徒たちにだるそうに挨拶する由紀に
からかう寮生たち。


「よー、由紀!朝っぱらから大変だな!」

「風邪引くなよー!」

「大変だよねー、野郎ばっかり登校してくるから楽しみないし」


笑いあう寮生に聞こえるように思いっきり舌打ちすると、
シッシ、と追い払う由紀。

私の方をチラリと見ると、不機嫌そうに顔をそらす。


寮生の一番後ろを歩いて、校門を少し過ぎたところで後ろを振り返る。
あ、今だれもいない。


よし、と決心して寮生に先に行っててと告げる。
ニヤニヤと笑ってる寮生たちの雰囲気を感じながら由紀の元へと走る。



「っせんせ、使って」

言うと同時にホッカイロを右のポッケに押し込む。
触れた由紀の手がすごく冷たい。


由紀のすこしびっくりした顔がニヤリと笑う顔になる前に、校舎へと走る。
火照る顔に冷たい風が気持ちいい。


教室に着くと予想通り佑と晃に青春だねえとからかわれた。



HRのため現れた先生はずっと右のポッケに手を入れていた。



「今日はストーブいつもより温度下げとけ」


「えー!さみいよ!」


「あ?今日は寒くねえだろ」


「いつもと同じです先生!」


ある寒い日のお話

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