新novel | ナノ


昔ながらの手錠に自分の片腕をはめ、カチャカチャと遊ぶ
暇つぶしにもならないそれは、異様に頑丈で
締めすぎたのか手首はすぐに悲鳴をあげて赤くなり始めた


「何してる」

ソファで寝転がるわたしを訝しげにみるコウちゃん
例のマシーンやらでトレーニングしてきたのであろう、汗だくの顔を拭いている


「見ての通り、遊んでるの」


「遊びにしちゃ、随分と本格的で自虐的だな」


「そうでしょ、でもね一人じゃつまんない」


「だろうな」


水を飲むコウちゃんにそっと抱き着いてみると、汗がじんわりとわたしのシャツに滲む
その感覚がくすぐったくて、思わず笑うとコウちゃんはわたしを優しく離す


「汗がつくことくらい、分かるだろ」


苦笑交じりにわたしの頭を撫でる
ねえ、わたしはさ


「一緒に、いたいの」


「割といつも居ると思うが」


「そうじゃない、距離じゃなくて
ああもう、分からないかな」


「…分かるさ、俺も同じだ」


わたしを後ろから抱きしめ
そっとわたしの手を取り、手錠を撫でると
腕のはまっていない方に手首をはめるコウちゃん

ギリギリと音を立てる手錠
余計に動かしにくくなる片腕

きつく締めたコウちゃんの手首も、少し赤い


「ふふ、なにしてるの?」


「一人じゃつまらないんだろ?
だから、遊んでやってる」


「遊びにしちゃ、痛そうだけど」


「…恋愛に痛みはつきものだろ」


「遊びだったの、ひどい」


クスクス笑うわたしにコウちゃんも笑って
わたしの後頭部にキスを落とす


「俺がお前だったら良かったのにな」


「…乱暴な執行官になれってこと?」


「いや、言い方が悪かったな
俺はお前になりたい」


「そんなにわたしのこと、好き?」


「じゃなきゃ、一つの手錠にはまったりしない」


「ただ、遊んでくれてるだけなんじゃないの?」


「なあ、もっと、俺の中まで来い」


ぎゅっと抱きしめるコウちゃん
表情は見えないけど、何故か不安がってるような寂しそうな感じがする


「コウちゃん、だいすきだよ?」


「当たり前だ
俺にとってなまえは」


「…わたしは?」


「…居場所、かもしれない」


「かもしれない?」


「なまえといると分からなくなる
俺というものが曖昧になるんだ
全て溶けてしまったように

…でも、一人で部屋にいると分かる
俺の居場所はここじゃないとな」


「悪いおんなかな、わたし」


「ふっ…そうかもな」


笑うコウちゃんに抗議
腕を少し強めに抓ってやった

それでも笑い続けるコウちゃんは
我慢できないようでわたしの首元に顔をきつく埋めた


「っ、くすぐったいよコウちゃん」


「…っふ、悪い
だがお前も悪い」


「わたし、なにも悪いことしてない」


「なまえ、好きだ」


「っなに、突然!」


あまり好きだとか言わないコウちゃんにわたしは挙動不審になる
それがまた可笑しかったようで笑い続けるコウちゃん


「…もう」


久しぶりの穏やかな時間にわたしも癒されていく


「…なまえ、」


「ん?」


「今日も一緒に寝るだろ?」


「…うん」


他人と一緒にいないと犯罪係数が上がってしまう体質なわたしは
毎晩、コウちゃんに抱きしめられながら寝ている

いくら彼女とはいえ面倒がると思っていたのだけど
思いの外、割と喜んで一緒に寝てくれるコウちゃん

…寝顔とか可愛いし、頭とか耳とか首とかのにおいを嗅いでくるあたり、やっぱり犬っぽい


「コウちゃん、わたしのわんこみたいだよね」


「何言ってる、お前が俺の犬なんだろうが」


「え、そうなの?」


「そうだろ
俺の回りちょろちょろするし、俺がいないとすぐ泣くし、俺が風呂上がるまでドアの前で行儀良く待っているし

俺の犬以外有り得ないだろう」


「むむむ…」


「ほら、もう寝るぞワンコ」


「…あーい」


コウちゃんの手錠に腕を引かれ、ベッドへ向かう
そのままベッドに横になる


「ね、手錠したままで寝るの?」


「…ああ、楽しそうだろ
色々と」


「色々って…なに」


「色々だよ、ほら寝ろ」


「痛くない?」


「痛くはあるが…まあいいだろ」


「血、止まってうっ血しないかな?」


「大丈夫だろ、ほらキスしてやるから早く寝ろ」


「…ん、おやすみ」


「ああ、おやすみ」


真っ赤になってしまった手首の痛みは、あまり感じず
わたしこそ溶けてしまいそうな安らぎの中

コウちゃんのくつくつ喉で笑う声が遠のいた_



「おっはよー!
…あれ、コウちゃんになまえ
その腕の痣どうしたの?」


「お前は知らなくていい」


「そそ!内緒ー!」


「あ!なんかヤラシー匂いがする!」


心についた痣

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