新novel | ナノ
談話室、ソファにはゲーマー3人
至さん、万里、そして私だ
バレンタインも近い休日、キッチンでは臣シェフ指導のもと、ガトーショコラやらブラウニーやらを作る練習が行われている

「あー至さん!凡ミスしないでくださいよ、HPヤバイって」

「万里のフォローが悪い、ちょい一旦立て直すからそこから離れて」

「へいへい」

狩ゲー真っ最中の2人はモンスターに夢中である
私は最近ハマっているパズルゲーをただひたすら解いている
連鎖キモチイイ
…あ、詰んだ

連鎖が止まり、一息つくためキッチンの方を見ると臣シェフがにこやかに太一に分量はどうとか、優しくゆっくり混ぜるんだぞとか教えてる
先生、私のことも優しくゆっくり混ぜてほしいです

そんな願望を込めて臣をじっと見つめる
邪な視線には気付かず、幸や密達、一人一人に気を配りながら説明してる

「あっ!臣クンごめん!!」

広いとは言えないキッチンにかなりの人数が作業していたため、ぶつかってしまったららしい太一と臣

かき混ぜていたチョコが臣のシャツに掛かってしまったみたいだ
チョコになりたい

「ちょい熱めだから早く脱いだ方がいいかも!本当にごめん!」

焦る太一をよそに、臣は笑いながら大丈夫だ、と笑顔で落ち着かせている

「でも、そうだな、着替えてくるよ」

キッチンの前の食卓机の前まで来ると、おもむろに臣はチョコのかかってしまったシャツを脱ぎ出した
え、脱ぎ出した?ちょっとなに冷静に解説してんだ

程よく、というかかなり引き締まった、というか私の大好物の筋肉たちが、今、目の前に

「やべぇやつがいんな」

「クソガン見してるじゃん、ちょっと引くわ」

ゲーマー組がなんか言ってるけど耳を素通り
臣の筋肉には勝てるものはない
腕の筋肉から、腹筋、背筋まで全ておいしくいただけそうですありがとうございます

つい拝みそうになったとき、臣がソファの横を通り、談話室を出て行こうとする

「…ん?」

つい通り過ぎようとする臣の腕を掴んでしまった

「どうした?なまえ」

なにかあったか?と首を傾げる臣
いや、なにかあったっていうか筋肉があったっていうか、もう筋肉しか見えないっていうか

「やけど、してない?」

パッと見、赤いところはないし痛がる様子がないから火傷はしていなさそうだけど、念のため聞かないとね
私彼女だしさ、邪な気持ちだけで掴んだんじゃないからさ、と誰かに言い訳しながら臣に問う

臣はにっこりと笑って
「ああ、大丈夫だよ、心配かけてごめんな」

と、さらと私の頭を一撫でした

こちらこそ邪な気持ちで引き止めてすいませんでした
先ほど言い訳した誰かに白状するわ、ほぼ邪な気持ちでした

「あ、でも、背中側がよく見えないからちょっと見てくれないか」

悪いな、と頬を掻く臣
目の前に臣の筋肉があって、それを見てくれなんて、頼まれなくても見るわ、っていうかむしろお願いしたい

「…あ、少し赤くなってる」

ココ、と背中側の横っ腹らへんをつんと指す
臣は少しだけぴく、と反応して、少し痛いかもしれないなと顔を曇らせた

「え!ちょ、すぐ冷やさないと!」

ほら、洗面所いこ!と臣の硬い背中を押す
あ、ああ、とされるがままの臣
遠くから、臣クンごめんッス!っと太一の謝る声に大丈夫だから気にするなー!と返す声が背中から手のひらに響いてきて、少しドキドキした事はちょっと不謹慎だったかと反省した


洗面所に着いて、水で冷やそうにも、背中に近い部分だったため、どうもうまく冷やせそうにない

「うーん、シャワーの方がいいかもしれないな」

「そうだね、ちゃんと冷やさないと跡残ったら大変だし」

私は外出てるね、と声をかけ、洗面所を出ようとしたとき

「あ、悪い、冷やした後軟膏塗りたいんだが1人じゃ塗れそうにないから手伝ってくれないか?」

と、ご褒美を、いや、頼まれごとをした

「あ、ああ、そうだよね、薬塗らないと
えっと、じゃあ外出てるからシャワー終わったら呼んで」
とだけ返して、焦る気持ちを抑えて洗面所の扉を閉めた

臣と付き合ってから、寮で生活してるということもあり、キス以上のことはしてない私たちだ
上半身とは言え、素肌に触れたことなどほとんどない
さっき押した背中の感触だって、まだ手にこびりついて離れない
自分の背中を触って確かめる、臣とは全然違う、柔らかいんだ、私の体は
臣はなんかとてつもなく硬かった、がっしりしてた
ああなんて表現したらいいか分からない

すごく、抱きつきたくなってしまった

素肌に触れたことでドキドキが止まらなくなって、もっと臣に触れたいと思ってしまう
もっと、臣に


「なまえー、冷やし終わったぞー」

「っ、は、はい!!」

臣の呼ぶ声に一瞬で引き戻され、声が裏返ってしまった
あ、軟膏取りに行くの忘れた


「ごめん、軟膏取りに行ってないから、ちょっと待ってて」

洗面所の扉を開けて、臣にそう告げ、軟膏を取りに行こうと足を踏み出した私を、今度は臣が腕を引いて引き止めた


「俺の部屋に使いかけの軟膏があるんだ、使用期限が迫ってるから、そっちを先に使いたいんだ」

部屋、きてくれるか?と眉毛を下げる
へ、部屋かあ…、半裸の臣と臣の部屋に入るのかあ
少し戸惑いながらも、早いところ軟膏を塗った方が良いと自分の中で結論づけて頷いた


「お邪魔します…」

「どうぞ、悪いなこんなこと頼んで」

「いやいや、全然!私こそ早く気付いてあげられなくてごめんね」

「いや、なまえが見てくれなかったら気付かなかったかもしれないし、ありがとう」

にこりと微笑んでみせる臣
まぶしい…、溶けそう…
いや、そんなことより早く軟膏塗らないと


平静を装って、軟膏を臣から受け取り、手に掬う
うう、抱きつきたくなる背中がまた目の前に……

軟膏がついた指をゆっくり背中につけると、臣は先ほどと同じようにぴく、と反応する

「…しみる?ごめんね」

「いや、そうじゃないんだ、俺こそごめん」

「ん?なんで謝るの?」

「あー…、いや、うーん、なんとなく」

はは、と頬を掻いて明らかになにかを誤魔化してる
なんだと言うんだ臣くん

軟膏を塗りこむ指に少し力が入る
硬い筋肉が、少しぴくぴくと反応してる

「あ、もしかしてくすぐったい?」

ふふ、とつい笑いが漏れてしまう
そんな私に、あー、いやまあそんなとこだ、はは
とだけ返した


「よし、塗り終わったよ」

最高の筋肉お触りタイムが終了してしまった
もうこんなチャンスは中々こないだろうなー

残念に思いながらも、でも火傷する臣は見たくないよなと一人納得して軟膏の蓋を閉める


「ああ、ありがとう」

笑顔で軟膏を受け取ると、臣の動きがふと止まった


「他にも痛い場所あった?」

心配になって臣の顔を覗き込むと、臣は少し瞳を細めて

「せっかくだし、Tシャツ、選んでくれないか?」

と笑顔でとんでもない爆弾を落としてきた

「ん?!私が?」

「ああ、1日なまえの選んだ服で過ごすってのも楽しそうだろ?」

なんですかその溢れんばかりの笑顔は、溶かす気ですか本当
そんな美味しすぎる提案に乗らないはずもなく

クローゼットの前には私と臣
臣は私の少し後ろに立って、Tシャツを選ぶ私をあの高い身長で覆うように見下ろしている

「あ、これ好きだ、あ、これも良い」

臣が着ているTシャツというだけですでに価値が何倍も膨れ上がっているのは大前提
でも臣が持っているTシャツはどれも私の好みでもあった

一枚一枚の匂いを嗅ぎたいところだけど、ここは我慢だ
さすがに半裸状態の臣が真後ろにいてそれをしたら私の心臓がブルーミングだ

「あ、それ色落ちしちまったんだった
まだ着られるが、外には着ていけないな」

部屋着にでもするか、と臣が呟くのでつい食い気味に

「え!じゃあちょうだい!」

と願望が口をついてでた

「ん?なまえには大きいだろ?」

「お、臣のTシャツ部屋着にしたい…」

だめかな、と臣を見上げると、臣は目を大きく見開いて私の女子感溢れる願望を受け止めてくれた

「え、っと、うん、いいぞ、そんなので良ければ」

ちゃんと洗ったよな、と私の手からTシャツを取り確認している


「洗ってても洗ってなくても、どっちでも最高」

「いや、洗ってないと臭いだろ」

「一回着て、私にくれてもいいよ」

「なまえがそういうんだったらそうしようか?」

「え!いいんですか!」

優しすぎる臣くんも考えものですね、最高すぎる彼氏に感謝を伝えたい

「じゃあ今日1日これ着るか」

と、ふと臣の動きが止まった
ん?と声をかけたと同時に、開いたクローゼットの扉に寄りかかるように、私に覆いかぶさってきた

「なあ」

「は、はい?」

急に真面目な顔になって私に顔を近づけて来る臣
いわゆる壁ドン状態なんだけど、そもそも上半身裸で壁ドンってちょっと、ブルーミング、いや言ってる場合じゃない


「もし誰かが火傷とか怪我しても、ああやって触れたか?」

「う、うん?ああやって?」

「一応、裸だっただろ?上半身だけど」

切なそうに眉毛を下げた臣の顔がより近づいてきて、鼻が触れそうだ
呼吸が浅くなる

「俺以外のやつに、触れたら」

私の髪を攫って、その鼻に近づけ、きゅ、と握る

「妬けるな」

「っ、」

真っ直ぐ私を視線で射抜く
臣から目が離せない

「俺のTシャツ、なまえが着ていたら、俺の物だって言ってるみたいで」

つい楽しくなっちまうな
と、私の髪に目を閉じながらキスして、そしてまた私を見抜く

その瞳はいつもの優しい眼差しのような、獲物をこれから食べる肉食獣のような、身が竦みそうな瞳だった

クローゼットの前から動けない私に、臣は髪を握っていた手を離して私の頬に手をかけ

「マーキング、しようか」

と、上からキスを落とした
最初から食べるみたいな深いキスで、耐えられず臣の腕を掴んだ
必死で臣のキスについていく私を追い詰めるように、臣のキスは止まらない

息苦しさが迫ってきて、臣の肩を押そうと触れたら
そういえば裸だった、と素肌の感触に頭がクラクラして触れた事を後悔した

「…っは」

やっと臣の唇から解放され、酸素を吸い込む
唇同士の間に白い糸が伝い、それごとまた軽いキスをされた

「Tシャツ、今日の夜やるから、明日1日なまえが着てくれよ」

そう囁いて耳元で笑った


「なあ、なまえの着てるTシャツ昨日臣が着てなかった?」

「あ?…あー、着てたかもしんねー」

「色々察しちゃうんだけど」

「臣って意外と独占欲あんだな」



2018.03/05

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -