えすりネタ | ナノ

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給食のおばちゃんに可愛がられる2人

2018.03.20

「あら!月岡くんじゃない!相変わらず細いわね!ご飯ちゃんと食べてるの?バランスも大事だけど、高校生はカロリー摂らないとだめよ!カロリー!おばちゃんはカロリー摂りすぎってお医者さんに怒られちゃったんだけどね!アッハハ!」

「あ、あはは……」

給食のおばちゃんから矢継ぎ早に繰り出されるパンチを避けられず、ただ笑うことしかできない

カウンターに並べられたおかずや味噌汁、そして白米など、自分でおぼんに乗せていくスタイルの給食で、白米は大盛り、普通盛り、少なめと選ぶことができる

俺はいつも普通盛りか、少なめを選ぶんだけど、それを見ていたおばちゃんからアドバイス(といっていいのか分からないけど)をもらった
大盛りはさすがに食べきれないから、普通盛りを選んだのだけど、無理やりおばちゃんに大盛りに交換されてしまった

「おい、後ろつっかえてる、早く行けって」

「あ、ごめん」

俺の後ろでおぼんをもつのは幼馴染の丞だ
丞は当たり前だろ、というような顔で大盛りの中の大盛りご飯を選んでいる

「あ、丞、今日はご飯普通盛りにしてくれよ」

「は?なんでだよ?」

「いいから、ほら」

先ほどのおばちゃんの如く、丞の大盛りご飯を無理やり普通盛りに取り替える

意味わからんという表情を浮かべながらも、渋々受け入れてくれる丞に、心の中で感謝して、席に戻る


少し経ってから、俺の向かいの席に丞が座る
おかずは全員同じ量の筈なのだが、丞のおぼんの上では、ポテトサラダがお皿からはみ出しそうな勢いで存在を主張している

「…おばちゃんに多めにしてもらったの?ポテトサラダ」

「…俺は何も言ってない。ただ笑顔で突き出されたから受け取っただけだ」

「なんで丞だけ給食のシステム違うんだよ…」

「知るか」

ずず、と味噌汁を啜る丞を見て、あ、今のうちにとお椀に盛られた白米を丞のお椀に移す

「なにしてんだよ」

「俺、流石にこんなに食べられないから丞食べてよ」

「…ああ、だから普通盛りにしろって言ったのか」

「そう、おばちゃんに無理やり大盛りに変えられてさ」

善意だから、断りづらいだろ?と、丞の普通盛りご飯を大盛りご飯に変え、ふ、と息を吐く
良かった、これでご飯が無駄にならずに済む

「そんなんだからそんなヒョロヒョロなんだよ」

「うるさいな」

ご飯とポテトサラダをかきこむ体力バカに、今日は少しだけ感謝した

払うからゲーム続けさせて

2018.03.16

「京都に左京区ってとこがあるんだって」

「ほーん」

至さんの部屋でソファにだらりと体を預けながら素材集めを延々繰り返す私と万里と至さん

返事を返してくれた万里と違って、至さんはヤギの瞳のようにまっすぐにして画面に釘付けである
いや、画面に釘付けというか現実に居ない感がある
思考はどこか遠くへ飛んで行ってしまっているようだ
ただただ素材を集める屍と化している

「左京区にね、税務署があるんだって」

「…ほーん?」

さきほどのただの相槌と異なり、少し興味が惹かれたのか、返事に色が付く

至さんは特に変化なく、返事がない屍である

「名前がね、左京税務署って言うんだって」

「…それうちじゃね?」

現実から遠く離れていた至さんがやっと帰ってきたようで、小さい声でツッコミを入れる

「至さんが帰ってきた」

「おー、よくやった、帰ってきたついでにもう一周いこうぜ」

「よし、いくか」

「お前ら!何時だと思ってる!!電気代ムダに掛かるだろうが!!」

「あっ、税務署キレてる」

「誰が税務署だ!電気代徴収されてえか?!」

誘惑に勝とうと思うのか

2018.03.14

「てめえが俺の足踏んだんだろうが!」

「んなとこに足置いてるお前が悪いんだろ」

「アァ?!やんのか!!」

「上等だ、表 出ろ!!」

睨み合うゲーマーと甘党
いつもの光景ながら、うるさい、うるさすぎる
声量がすごい、とにかくすごい
劇団員として練習を重ねてきたからか、入寮当時よりも喧嘩する2人の声が談話室内によく響き渡っている気がする

ソファに座りながら、棒状のチョコがかかったお菓子を頬張る
キッチンの方から、こら、また喧嘩してるのかーとシェフが声を掛けてる

そんな声も2人の世界には入ってこないらしく
今にも外に出て一殴りしそうな雰囲気である

…今この状態で十座にこのお菓子差し出したらどうなるかな

面白いいたずらを思いつくこの感覚、小学生の頃は毎日のように感じていた
あの頃いたずらを仕掛けたたあの男の子は元気にしているだろうか

入寮してからというもの、からかい甲斐があるメンバーが多いせいか、小学生に戻ったかのように、毎日違う面々に小さいいたずらを仕掛けている
今日は君に決めたぞ、十座くん

ソファから立ち上がり、2人に忍び寄る
どちらが先にドアを開けるかで言い争う2人の傍らに立ち、無言で十座にお菓子を差し出す

「てめえが開けろや!てめえ如きに手を使うのももったいねぇ…って、アァ?」

「お前が開けろ、俺よりチビなんだからドアノブに手が近い…って、アァ?」

睨み合う視線を一瞬こちらに向ける両者
万里は明らかに邪魔すんじゃねぇって目で訴えかけてる
眉毛を左目の方だけ上げて、私を見下げる

十座はそんな万里を更に見下げるように、あごを上に向けるように顔を傾けているが、視線は明らかにこのお菓子である

そのまま無言でお菓子を差し出していると、両者はそのまま固まり、どう動くか考えているようだ

十座の体が僅かに震える
まるで薬物を我慢している中毒者のようだ
そこまでこのお菓子を食べたいのかい十座くん

喧嘩とお菓子を天秤にかけ、どちらがより自分の中で大事なのか必死に考えていますとでもいうような様子だ
分かりやすいやつめ

彼の中で答えが出たのか、視線を万里に戻し、再度睨み返す十座
お、お菓子の誘惑に勝ったのか

と、思ったら視線を万里に向けながらも、顔だけをこちらに寄せ、差し出されたお菓子をばくり

ぽき、と音を立ててお菓子は十座の口内に飲みこれていく
どうやらお菓子と喧嘩、両方を選んだらしい

ぽきぽきと軽快なリズムを刻み、お菓子は姿を消した
十座の瞳が少し綻ぶ

「いや、食うのかよ…」

と喧嘩相手は戸惑いを、というか呆れた声を発している

「おい早くドア開けろ」

「ハァ?!だからてめぇが開けろ…ってまた餌付けすんのかよ!」

2本目を十座に差し出すと、1本目に見せたあの葛藤はなんだったのかというスピードでお菓子をばくばく食べている
馬ににんじんをあげよう!コーナーがある牧場体験をしているかのような気分である

試しに万里にお菓子を差し出してみたら、おいいい加減にしろや、普通にいらねえわ
と手を叩かれた

その手を十座に掴まれ、
自分の方に引き寄せ、俺のもんだとでも言うように万里を睨みながらお菓子をまたばくばくぽきぽき

ハァ…、萎えたわ
と、ため息を残し万里は談話室から出ていった


「なんだアイツ、自分でドア開けて出て行きやがった」

「残りあと1袋あるけど一緒に食べる?」

「…っす」


キッチンで見守っていた臣の瞳は優しかった
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