「しんちゃ、しんちゃん!!」

舌っ足らずな声が俺の後ろから聞こえてきた。振り返らずともあの小さなからだが必死に俺の後を着いてきているのが分かる。そのまま無視して歩き続けてやっても良いが、このまま行けば脚がもつれて転ぶ事は目に見えていて、仕方なく俺は後ろを振り返る。すると奴はだらしない顔を更にだらしなくさせた。

「…なんなのだよ、カズ。」
「どっこいっくのー!!」

ぽふり、と俺の腹に突撃してきた(しかしダメージは皆無だか)カズは俺をきらきらとした少年の瞳で見上げてきた。その瞳にはあ、とため息をついてから「図書館だ」とだけ言う。するとカズの瞳がまた嬉しそうに光った。

「としょかん!!」
「ああ、そうだ。だがお前は邪魔だから来るな」
「えーっ!!」

しがみついてくる頭をはがそうにもぎゅうぎゅうとしがみついてくる体はなかなか離れようとしない。まさか九歳児に本気を出すわけにもいかず中途半端に力を加えているとカズはうう〜だかなんだか訳の分からないうめき声を上げている。此方から見えるつむじから「おれもいっしょにいく!!」と言う声が聞こえた。

「…静かにするなら着いてきても良いぞ。」

先に折れたのはやはり俺の方で、仕方なくそういってやるとずっと腹に埋めていた顔をばっと上げて顔を輝かせた。それを聞いて安心したのかようやく俺から離れたカズはスキップで俺の前へと駆け出る。少しいった、そう遠くない場所から「はやくー!!」と憎たらしいほど元気な声で叫ばれて、思わず耳をふさいだ。



俺とカズは所謂幼馴染みだった。田舎では無いが都心でもないこの街に来て早七年が経つ。そしてちょうどその頃に、向かいの高尾家にカズが生まれた。カズは俺がたいそう気に入ったらしく、小さい頃は良く一緒に遊んでいた。が、中学に上がる頃には俺もなにかと忙しくなり、カズとももう遊べないと思っていたのだが、カズは俺がどこか出かける度にひょこひょこと後を着いてくる。その様子は端から見ればほほえましい光景らしく、近所の方が見かけるだびに「本当に和君と真ちゃんは仲が良いのねえ」と言われていた。そして現在進行形で俺の服を引っ張ってずんずんと前を歩くカズと、させたいようにさせている俺たちを見たおばあさんが「仲が良いのねえ」と笑っていた。
別にカズに友達がいない訳ではない。寧ろカズは俺よりもコミュニケーション能力が高い。親しみやすい笑顔としゃべり方で、小学校に上がってから心配せずともすぐに友達は出来た。勿論平日はその友達と遊んでいるのをよく見かける。が、しかし俺やカズが学校のない休日はいつもカズが俺の後を着いてきていた。だから休日はいつもカズと過ごしていると言っても過言ではない。遊ぼう遊ぼうと俺に訴えかけるカズは毎回俺が折れるまできゃんきゃんと叫んで諦めない。
だが、俺は知っている。何もカズは俺のスケジュールもお構いなしに遊ぼうと言ってくるただの我が侭なのではない。なぜなら俺が本当に忙しい平日などは俺を見かけても「しんちゃーん!!」と煩く挨拶はする物の、此方に駆け寄ってきて俺の邪魔をする事はない。要はカズは俺が本当に「嫌だ」と思っていないと判断したときにのみ俺に着いてきた。その辺りはカズは驚くくらいしっかりしる。
今だって俺に「しゃべるな」と言われたので図書館に入ってからはまだ一言もしゃべっていない。俺が勉強をする前で虫などの本を図鑑を見るか、何が楽しいのかは分からないが俺の勉強を珍しそうに見ている。一度「休日は友達と遊ばないのかと聞いたら」「しんちゃんとあそべんのはきちょーだからな!!」とはにかんでいた。

「…む、もうこんな時間か。」

気付けばもう時計の短針は5をさしていて、窓の外はもう暗かった。

「カズ、帰るぞ」
「ん!!ちょっと、まってて!!」

俺に言われていつの間にか読む物が小説に変わっていたカズは、ぱたんと本を閉じてぱたぱたと戻しに行った。




「わー!!すげーまっくら!!」
「こら、走るなカズ、転ぶぞ」

暗い道を走り回るカズの手を捕まえれば、次はカズは「真ちゃん肩車してよー!!」と言って来た。仕方なく屈んでやれば俺の肩に脚をかける。それを確認してから立ち上がればカズは興奮したように「おおお!!」と叫んだ。

「たけー!!すげー!!さみー!!」
「バカめ、そんな薄手で来るからだ。」

そういうと上から「しんちゃんあったけーから、問題なし!!」と俺の頭にぐりぐりとすり寄ってきた。いくら小学二年生といえども、そんな事をそれればさすがに危ない。「暴れるな!!」としかればそれに楽しそうに笑うも、俺の頭に額を押しつけて大人しくなる。へへ、と笑い声が聞こえて、俺はそのまままたしたいようにさせておいた。

季節は冬。
空はもう群青色に染まりきっていた。




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