あつい。寒いはずの今の季節でこんなことを言おうとは。身体が心臓になったみたいで、どくどくと血液が身体をぐるぐると回る。あらい呼吸を整えてからスポーツ飲料をあおった。こんなにも息は乱れているのに、手は、脚は、身体はもっと動きたいとうずくのだからしょうがない。俺はちらりと向こう側に視線を投げかける。

「どうした黄瀬。難しい顔してんぞ。」

そうしていたせいか、隣に座ってきた青峰っちの存在にまったく気がつかなかった。思わず黒子っちが居た時のような反応を返せば、呆れた顔をされて頭をはたかれる。それから「で、何不細工な顔してたんだよ」と言ってきた。(ひどい。俺これでもモデルなのに。)

「いや…なんでもないっす」

もちろんなんでもないわけではない。もう一度そちら――タカオクン達の方に視線を向けた。今は紫原っちがタカオクンを肩車してあげている。きゃっきゃと無邪気にはしゃいでいるそれは、まさしく小学生だ。あれ、っていうか紫原っちって子供苦手じゃ無かったっスか?なんでそんな馴染んでんの。
――と、紫原っちのことを言っているが、実は俺も子供は苦手だったりする。いや、苦手というより…どう接していいかわからないといった方がいいだろうか。ついでに言うとあの子の目もいけない。あんなきらきらした目で見つめられてもどう反応すればいいのか分からない。黒子っちはもともと子供は好きだったし、紫原っちもどうやら気に入ってるみたいだ。では隣の青峰っ地はどうなのかというと、「根性あるやつでよ、バスケも教え甲斐あるぜ」と楽しそうに話していたので、やはりそれなりには好いているのだろう。

「…おまえ、高尾のこと苦手だろ。」
「…まあ。その…タカオクンの接し方に困ると言うか…」

言い訳はしないッス。そう言ってぼんやりとしていると、こちらに黒子っちたちが向かってきた。どうやらあちらも休息らしい。紫原っちの肩から降りたタカオクンは満足げに笑っている。

「あっちゃんすげー!!ちょーたかかった!!」
「よかったなカズ」
「ん!!」

そういったタカオクンを見ていた緑間っちだが、突然財布をだしたかと思えば、小銭を出した。百円玉三枚だ。もしかしてタカオクンに何か買ってあげるのか。と、思えばそれをタカオクンに差し出す。

「カズ、自分の好きな飲み物と、俺のおしるこを買ってくるのだよ」
「へーい!!」

そう元気よく頷いたタカオクンは、緑間っちから小銭を受け取った後、走って自動販売機まで駆けて行った。その後ろ姿を見てから緑間っちを見る。

「…緑間っち、ちいさいこにパシリって…案外えげつないんスね」
「パシリではない。おつかいなのだよ。」
「へえ、おつかいか。じゃー黄瀬、俺のもかってきてくんね?」
「えー!!なんで俺!?」

そう言われて青峰っちにこぜにを渡されてしまい、反射的に受け取ってしまった。「よろしくなー」と言われてしまえばもう買いに行くしかないわけで。しかたなく俺は自動販売機に向けて足を運んだ。
俺がついたころにはまだタカオクンがいてぎくりとする。俺に気付いて振り返ったタカオクンに、俺はあわてて声をかけた。

「決まってないんスか?」
「うん…どっちにしようかなあって。」

うーん、と悩むタカオクンのつむじを見下ろして、また先程のきらきらした目を思い出して、「なんで俺が黄瀬って分かったんスか?」と無意識に口からこぼれおちた。考えなくても分かるような質問をした自分に呆れてしまう。これでも一応それなりに有名なモデルなんだ。顔くらいは知ってるだろう―――そう思えば、タカオクンはこちらを見上げたあと、にっと得意げに笑った。

「真ちゃん達が、顔は良いって言ってて。だから一発でわかった!!」
「え?」

今までに「かっこいい」とか「きれい」とか「かわいい」とか。そういった顔のことでほめられたことは何回もある。モデル業やってれば必ず言われる社交辞令も勿論あるし、ファンの子たちにも会うたびかっこいいだのなんだのはよく言われる。それは仕事で言われるものとは違い本心ではあるが、やはり必ず潜んでいる下心なるものが隠しきれずに、言葉の間からちらちらと垣間見えてしまう。男からは嫉妬の、女からは下心のこもった、もう聞きあきたはずのその類の言葉。なのに。

「だって黄瀬さん、王子様みたいだもん!!」

その、ただ単純に感想を言ったような、下心も嫉妬もなく、ただただ見たままのものを口にした純真かつ真っすぐなその言葉が俺の心をじんわりと温めてくれて。
小さな子供は、相も変わらず俺をそのきれいな瞳で見つめてていた。




「おせえよ黄瀬」
「ごめん青峰っち!!怒んないで!!」
「ごめんね真ちゃん!!」
「おい高尾、俺には謝んねーのか」
「青峰君、理不尽な怒りを高尾君にぶつけるのはどうと思いますが」

帰ってきた俺たちをまず迎えたのは青峰っちの不機嫌な声だった。まあ買いに行ってから10分ほどたっていたから文句を言われるのも仕方がない。

「ごめん、涼ちゃんはわるくねーんだよ!!俺が迷ってたから…」
「高尾っちは良い子っすねえ。」
「…は?」
「あ、聞いてよ緑間っち!!高尾っちってば気配り上手なんスよ!!俺が高尾っちが迷ってるから「先に緑間っちのおしるこ買えばいいのに」って言ったら「真ちゃんのおしるこ冷めちゃう」って!!いやあ緑間っちの教えの賜物っすかねえ」

しかも緑間っちの横暴さに「不満とか無いんスか?」と聞いてみたところ、「んーん、真ちゃん喜ぶから、いい!!」と笑いながら言ったものだから心が広いことこの上ない。すると青峰っちや黒子っちが驚いた表情をしているので何かと思えば、青峰っちが突然「おまえ本当心がわりはえーな!!」と突っ込んできた。

「黄瀬ちんって、カズちんのこと苦手じゃなかったっけー」
「それがたったの十分で…一体何があったんですか?」
「えー?だから、言ってるじゃないっスか!!」


俺は、尊敬した人にはケーイを払う主義なんっスよ!!




中3を無意識に口説く小2。黄瀬ちょろい。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -