「う…ん…?」

妙な感覚に、俺は瞼を上げた。だんだんと覚醒していく意識。すると視界に広がるのは俺の部屋ではないどこかの風景で、一瞬思考が停止した。周りを見ればそこには山のように白い袋が積み重なっていて、袋からはくまのぬいぐるみやらミニカーがこちらを見つめている。天井なんてものは無くて、上はどこまでも続く白い空。そこで俺はようやく「あ、これは夢か」と気づく。それと同時に後ろから「やあ」というソプラノヴォイス。振り返ればそこには赤いカーディガンを羽織った男がいた。

「…だれ?」
「ふふ」

そう意味深に笑うと彼(多分)は腕を後ろに組んで「僕はサンタさんだよ」と流れるような口調で言った。あまりに現実味のない言葉に口角がひくりとした。サンタさんなんてもう小学校3年で卒業していた。が、ここは夢であってなんでもありなわけで、まあサンタさんくらいいたっておかしくはないだろう。俺の夢だし。

「ふーん。サンタってもっとおじいちゃんみたいなの想像してた、俺。」
「おや。ごめんね期待通りのサンタさんじゃなくて」
「で、サンタさんなら、もしかしてなんかくれんの?」

俺がそういうとその"サンタさん"はゆっくりと口角をあげると「そうだよ」と言って後ろに組んでいた右手の人差し指を立てた。

「君は、選ばれたんだ。僕らに。」
「…選ばれた?」

発せられた言葉の意味がうまく飲み込めずにそういえば、サンタさんはこくりとうなずいて目元を綻ばせた。きれいで澄んでいるオレンジの瞳。それはどこか母親を彷彿とさせるものだった。(男だけども)

「僕たちはサンタさんだ。みんなにプレゼントを届けるサンタさん。でも届けるのは良い子だけで、悪い子には届けないのが僕らサンタさんだ」
「ふうん。ずいぶんキビシイサンタさんなんだな。で?俺はその良い子にでも選ばれたの?」
「察しが良くて助かるよ。そうさ。僕らサンタさんに選ばれるのはそれはそれは良い子だけだ。努力している人、社会に背を向けていない人。それに君は選ばれた。僕らはそんな良い子たちのお願いをなんでも一つだけかなえるんだ」
「…願い?」
「そう。お願い。」

そういうとサンタさんはくるりと立てていた指を宙で回した。すると今までのただの白い部屋とは一変して周りが夜空にかわる。数々の星が瞬いていて、宇宙の中にいるみたいだ。サンタさんがもう一度指をくるりと回せばじゃらりと足元に宝石が散らばる。いつの間にか袋に入っていたようなくまのぬいぐるみや女の子向けのかわいいピンクのカバン、ネオンカラーのスニーカーが宙を浮いている。それらを目で追いかけているとサンタさんは「さあ」とそのソプラノヴォイスをこの宇宙空間に響き渡らせた。

「君は何が欲しい?お金?未来?才能?僕が何でもあげよう。」
「さあ」

「君は何が欲しい?」そうもう一度そう聞く。橙の瞳がこちらをジイ、と見つめてきた。俺はそれを見つめ返しながら何が欲しいか、と聞かれたら何が欲しいのかを考えた。(どうせ夢なんだ。考えるだけならいいだろう。)欲しかった腕時計。レアカード。新しいイヤフォン。バッシュ。欲しい物はポンポンと思いつくけど、なんだかどれもしっくりこない。目線を緑から外してあたりに漂うおもちゃたちを見ていると、サンタさんの「ふふ」という笑い声、それからパチンと軽快な指を鳴らす音が聞こえて、それと同時に周りのぬいぐるみや宝石や夜空が一瞬で消えて、元の白い部屋に戻る。もう一度サンタさんに視線を戻せば、その橙は伏せられていた。

「まあいきなりそんなこと言われても困っちゃうよね。信憑性もないだろうし。だから一つだけ、お試しで君に欲しいものを明日一日だけ一つあげよう。」
「え。まじで?」
「うん。何がいい?」

思いもよらないその言葉にうーんとうなるとサンタさんは突然指を鳴らしたかと思えば手帳を出した。(文字通り出現させた)それに何か書いている様子を見つめていた俺はサンタさんに「なにしてんの?」と聞けば「あっちの良い子のプレゼントが決まったらしくてね。それを書いているんだ。」と言われて、「あっち」という部分に引っかかった。あっち?あっちってなんだ?

「僕らサンタさんは一人じゃなくて数人の組織なんだ。僕一人じゃとても回収しきれないからね。僕の担当は君。今書いたのは別のサンタが僕に電波信号で送ってきた別の子ののプレゼントだ。」

なんだかすさまじいサンタシステムにへえ、と感心してしまう。なんか神経の伝達みてえ。と考えて、明日一日のサンプルお願いを思いついた俺は「あ」と口にした。

「決まった?」
「おう。あのさ、頭ってあり?」

そう聞けばサンタさんは「あたま?」と頼りなさげな口調で復唱した。それから自分の頭を人差し指で、とん、と指す。それから口を開いて出てきた言葉は。

「頭って頭蓋骨?それとも脳みそ?」
「違う違う」

そんなグロテスクなもんいらねーよ。そう笑ってから俺はサンタさんと同じように自分の頭を指差した。

「ここ。俺が言ってんのは。つまり頭脳?ようは頭がよくなりてーの。」
「ああ、知恵か。わかった」

手帳に書き込んでいるのはおれの願いなんだろう。訂正しなければあそこに頭蓋骨と書かれて、明日俺は殺人犯化何かに仕立て上げられるところだった。自分の枕元頭蓋骨とか脳みそとかおかれていたと思うとぞっとする。サンタさんはパチンとまた指を鳴らして手帳をしまうと視線をこちらに投げかけた。

「了解したよ。じゃあまた明日の夜くるからね、和成君。」

「ちゃんとお願い決めておいてよ?」そういってサンタさんが手を振るのを最後に、俺の意識は途絶えた。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -