「うひょー!!さみーーっ!!!!」

ひゅぅ、風が耳元を通りすぎて行った。秋から冬に代わり始めた今日の夜風は刺すような痛みを伴う。ハンドルを握りしめる手が冷たい。ガタガタとリアカーを引く音がやけに大きく聞こえた。

「高尾、うるさいぞ近所迷惑だ。」
「へーへーすみませんっと!!」

ぐん、と足に入れる力を大きくする。吐く息は白くて、吸い込んだ空気は冷たく澄んでいた。
今日は11/21。つまりは一年に一度の誕生日な訳で、先輩達、同級生からプレゼントを貰ったのだが、真ちゃんからは一行にプレゼントを貰えないでいた。帰りのチャリを漕ぎながら、まさかこのまま貰えないままなのかと焦りを感じていた矢先に言われたのは「誕生日おめでとう。」だった。驚いた。思わず足を止めてしまった程だ。後ろを振り替えれば間が悪そうに目を反らしている真ちゃんがいて、頬の赤さは冬の寒さとは関係が無いものだと思う。まだプレゼントを貰った訳でもないのに、嬉しさに頬をだらしなく緩ませていると、捲し立てるようにこう言った。

『・・・何でも、言うことをひとつだけ、聞いてやるのだよ』

正直、その場で抱いてやろうかと思った。それくらい、その言葉の威力は絶大だったのだ。我が儘で、プライドが高くて、他人に何かするどころか、部活で我が儘は3つまでと言うルールさえ作らせる程のこの女王様が、言うことを、ひとつだけ、何でも。
愛しさが込み上げてくる他ないだろう。嬉しかったんだ。「プレゼントはお・れ」なんて、ベタな物は期待していなかったんだけどな。勿論めちゃくちゃにしてやりたかったし、せっかく真ちゃんがそう言ってくれたんだから、いつもは出来ないようなあんなコトこんなコトもしてやりたかった。が、それは今じゃ無くても出来る事だし、何となく、何となくだけどもったいない気もした。真ちゃんが言っていた「ひとつだけ」が、どのお願いにたいしても、どうしてもついて回る。そうして決断出来ずに、結局出てきた答えは「誕生日の最後、一緒にいて」という、何だか女々しい物で。
だから俺はお母様に許可をもらった真ちゃんを家までリアカーで向かえに行き、連れ去った。

「ところで高尾、一体どこに向かっているのだよ」
「もーちっとだから。」

ガラガラとリアカーを引く音は、夜の静かな町によく響く。1ヵ月位前まで鳴いていた鈴虫やまつむしは皆居なくなっていた。

「はい、とーちゃく!!」

そう言ってリアカーを止めた場所は、長い階段の下。

「・・・なんだここは?まさかお前はこんな暗い場所で誕生日最後を迎えたいのか?」
「ちげーって!!目的地はこの先!!こっからは階段のぼんだよ」
「お前は本当に何処へ行く気だ・・・」

怪訝そうに目を細め、グチグチ文句を言いつつもリアカーから降りた真ちゃんに右手を差し出す。それを見て驚いたように目を少し見開いた真ちゃん。もう暗いし夜遅いし、おまけにこんな隠れた階段何かに人は来ないから、ダメもとで行動に出たが、やっぱりダメか、手繋ぐなんて。まあ真ちゃんが嫌がったら止めようと思ってたしな。それこそ『お願い』にカウントされたら元も子もねえし。そう諦めて「悪い」と言って手を引こうとした、まさにその時、ぎゅっ、と、手が重ねられた。

「・・・え、」
「何だ、こういう事じゃ無かったのか?」

驚いた俺に、真ちゃんは少しぶっきらぼうにそう言った。握りしめた手は、おしるこの缶を握っていたからか温かい。真っ直ぐ見つめてくる緑色の瞳と、テーピングされた左手が、緑間のパーソナルスペースに入ることを許されているようで。いつもなら「何々、デレ!?デレなの真ちゃん!!」と茶化す所だが、そんな事をする気にはなれなくて、愛おしさが溢れて留まる所を知らない。

「・・・ありがと、真ちゃん」

そう笑って、真ちゃんの手を引いて歩き出した。





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