真ちゃんを綺麗だ、って思うときはよくある。

それはスリーを決める時のフォームだとか、ゴールに吸い込まれるボールを見据える瞳だとか。全部が全部すっげえ綺麗で凜としていて、愛しいな、と思う。


と、言うよりも、俺はどちらかというと緑間真太郎を神聖視しているのかも知れない。



パスッ、と、ボールがネットをくぐり抜ける音が聞こえた。見れば真ちゃんはいつものように黙々とスリーを打ち続けていて、そしてまた一つボールが吸い込まれていった。リングにかすりもしないそのボールは、バアンと床に叩きつけられて転がっていく。崩れないそのフォームを俺はぼんやりと見つめていた。米神から顎にかけて汗が落ちるのが分かり、それを乱暴に拭って天井を仰ぐ。何だか今日はいつも以上に動きたい気分で、最初から飛ばしてしまった。情けなくももう疲れていて、体育館の床に座り込む。窓の外はもう真っ暗で、体育館の証明がいつもよりまぶしく見えた。開いている窓から冷たい空気が入り込んできて、それが汗をかいた体を心地よく冷やしてくれる。「きもちー」と呟いたところで、ばさりと何かがかけられて目の前がオレンジ一色になった。

「ぶっ!?」
「体を冷やすぞ。」

顔面にかけられたのは俺のジャージで、見上げれば真ちゃんが呆れたように此方を見下ろしていた。それから俺の隣に腰を下ろす。今のは心配されたと言う事だろうか。それならば凄くレアだ。真ちゃんが心配を行動に移すなんて。真ちゃんが俺の事を心配した事がない訳ではない。ただ他人に対する気持ちを行動に移すのが苦手なだけで、だからこそこうやって俺の体を心配してジャージを掛けるなんて、珍しい事だ。自然とにやける顔に、真ちゃんは「気味が悪い」と言ってデコピンをしてきた。いってえ。

「何だ一体。」
「いんや?ただ真ちゃんが俺の為にわざわざジャージを持ってきてくれるなんて嬉しいなーと和成は思いまして」

そう言えば真ちゃんは「幸せな奴め」と言ってドリンクをあおった。


上下する喉。汗の伝う首筋。


それすらも綺麗で美しく感じられて、俺は目をそらした。俺が見てはいけないような光景。そんな気がしてならなかったのだ。真ちゃんは全てが綺麗だ。余すことなく美しい。男にこの表現はどうなんだと思うが、それが当たり前のように感じられる程、俺にとっての真ちゃんはそう見えてしまうんだ。
俺と真ちゃんは、所謂おつきあいをしている。キスもして、勿論そういった事もした。真ちゃんの神聖ともいえる体を拓き、奥まで俺を刻みつけた。それでもやはり真ちゃんの美しさは変わる事を知らなくて、いつまでもいつまでも俺の中の「きれいな緑間」でいた。
しかし人間とは貪欲な物で、緑間真太郎の体も心も奪った次には、それを自分だけの物にしたくなった。縛って、かくして、俺しか知らない暗がりに連れ込んで。そう考えるとゾクゾクとした支配欲が背筋を駆けめぐる。が、そう考えている一方で、真ちゃんを俺なんかが支配して言い訳がないと思っている自分もいた。
他人に見てもらいたい。自分だけが見ていたい。そんなジレンマにむしばまれ、悩みもがく自分に最早嘲笑しか出ない。

「しーんちゃん」
「なんだ、煩いぞ、・・・?」
「しんちゃーーーん」
「おい高尾、離せ、暑い。」

「真ちゃん真ちゃん」と煩く言いながらずりずりと歩腹前進をして真ちゃんの腰に抱きつく。グリグリと額を腰に押し付ければ真ちゃんは離せと頭を離そうとする。それでも離れない俺に諦めが着いたのか、ため息を着いてから頭から手を退かした。俺がこうやって引っ付いても本気で抵抗しない真ちゃんも真ちゃんだ。内心そこまで嫌では無いのだろう(と思いたい。)
ぐっ、と腕に力を込める。血液の音がよく聞こえた。それはドク、ドク、と一定のリズムを刻んでいて。


愛しい。全部、全部愛しいんだ。


綺麗で、力強くて。美しいこの獣を自分だけの物にしてしまいたい。でも俺なんかの小さな檻に閉じこめておくなんてもったいない。
こんな齟齬した汚い気持ちを、この人に知られたくない。


(気付かなくて良い。分からなくて良い。)


俺は目の前にある腰に唇を押しつけた。あたたかな温もりに、この熱はすぐに溶けてしまうだろう。「なんだ高尾」と言って怪訝に此方を見る真ちゃんに、俺はただ笑みを浮かべた。


「んーん、何でもない」


意気地のない我が侭な俺は、
想いを舌に乗せずに唇に乗せて、
心に伝えず体に伝えた。


(そういや、キスする場所に意味とかあったよなあ)
(…腰って、なんだっけ。)





「あー、疲れたー。マジこれからチャリ漕ぐとかきついわー」

居残り個人練習が終わり、ロッカールームで汗を吸ったシャツを脱ぎ捨てる。冬だとは思えない汗の量に、俺は思わず「うへー」とうなってしまった。ぐっしゃりとしたそれを袋に適当に入れてから真ちゃんにシャワールーム行こうぜと声を掛けるもいっこうに返事はない。どうしたのかと後ろを向いた所で、真ちゃんに突如尾てい骨をひっつかまれてびくりと体が跳ねた。

「え、ちょ、真ちゃんどったのっつか汗まみれで汚いからやめた方が」
「煩い黙れ。」

ぴしゃりとそういわれてしまい大人しくするほか無かった。が、やはり気になるし汚いし、やめて欲しい事には変わりなくてそわそわしていると腰のところに何か柔らかい物が当たった。勢いよく下を見れば、腰辺りに緑間の顔があって。

「お前だって、さっきやっていただろうが。」

ぶっきらぼうにそういわれて固まった。気付かれていたのか。真ちゃんはふん、と鼻で笑った後にもう一度俺の腰にキスを落とす。


あの緑間が俺に傅いて、腰に唇を寄せていて。


(ああ、思い出した)




そのキスの、意味を。











企画「Heaven's will」様に。素敵な企画をありがとうございました。
ちなみに真ちゃんはキスの意味を分かってると思う。




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