「真帆、大丈夫か?」


元親が出ていってから、自分で布団を敷き静かにしていると、襖がそっと開き、ひょこっと心配そうな顔をした義父が顔を出した。

義父は場内の同じ離れに暮らしている。だが、今日は宴会でいないはず。なんでこんな所にいるのだろう。
開きになるにはまだ夜は浅すぎる。



「もうなんともないんだけど、元親兄様が静かにしてろって言うから…」

「そうかそうか、なら良かった。」

状態の良し悪しを聞き、安心したのか顔は安堵の表情になった。


「父さんの言うことは聞かないのに、元親様の鶴の一声…だなっ。」


はっはっはと豪快に笑う。少し眉をひそめて、でもどこか嬉しそうに。

「そんなことないよっ。もう父上ったら。」

「お前もあと少ししたら、16になる。縁談の一つや二つ、無いこともないんだか…。」

「え!!あるの??私なんかに?」

そんな話、聞いたこともなかった。突然の告白に驚きを隠せず、ぱくぱくと言葉を失った口が動くばかり。
「真帆、お前とて16の女だぞ。それに俺の娘だってことも忘れるなよ?」
つぃと指を指された。

確かに義父は元親の下臣で、低くはない地位にいる。

だがな、と父は続けた。

「俺は元親様とお前が一緒になるのが1番だと思ってる。」

この頃、父はよくこんなことを言っている。全く…。

「また、それ。何度も言わせないでよ。私なんかが元親兄様と釣り合うわけないでしょ。」

何度も言わせないで。その先を言う度に傷つくから。

自覚してるから、自分で言うと余計につらい。

父の身分は低いわけではない。だが、自分はどこぞの姫でもなんでもないのだ。

自分と結婚したところで元親にはなんの利益も生じないことは目に見えている。

「そんなことより、宴会を抜けてきてるんでしょう?私は大丈夫ですから、もう行ってください。」

ちょっと寂しそうな表情を伺わせたがすぐに笑って手を振った。宴とて父には父の仕事があるのだ。いちいち私に構っていてはそちらに支障がでてしまう


「…そうか、わりいな。じゃあ行ってくる。」


そっと襖を閉め、父は行ってしまった。


しんとした静けさが一人には狭くはない部屋を支配する。


呼吸器が弱く、病弱なのは生れつきらしい。大きな声を出す為に肺いっぱいに息を吸えば咳が止まらなくなり、しまいには呼吸が出来なくなってしまうこともある。




世話になっている身だというのに、手伝いができないことは逆に苦しかった。


ことさら今日は稀にあるお祝いの宴。自らの料理を楽しみにしていると元親も言ってくれていたのに…。
俯き、布団と睨めっこをしては自己嫌悪に陥るの繰り返しだった。

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