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薄紅の花びらを散らし終え、桜並木が葉桜となった春半ば。
今日もこの港街は活気に満ちている。行き交う人々は海の男がほとんどを占め、昼間から酒を飲みながら大騒ぎしていた。
どうやら"仕事"から彼らが帰ってきたようだ。
港から続々に厳つい男と、それに担がれた廿樂(ツヅラ)がやって来る。その廿樂の口は溢れ出ている金や反物でほとんど閉じていない。
「野郎ども、酒は程々にしとけよ!」
紫の南蛮の服を羽織って、船の碇を模した巨大な武器を担ぎ、存在感を撒き散らしながら歩く――彼。
「なんだぁ、アニキは飲んで行かないんすか?」
「まだ仕事が残ってんだよ!てめぇらと一緒にすんな」
どっと周りが沸いた。
ちげぇねえ、と話し掛けた当人も笑っている。
「今日は"獲物"が大漁でしたね。アニキ!」
彼が歩けば誰もが振り返りその存在を歓迎する。
「おうよ!!」
そんな彼がいるからこそ、この海賊で溢れた街は治安がよかった。
白銀の髪を鬣(タテガミ)のようになびかせる隻眼の――
「てめぇら!鬼の名前を言ってみな!」
『モ・ト・チ・カッ!!』
うぉぉおぉおお!と、無駄に吠えている様子からして、どうやら今日の"仕事"は"大漁"だったみたいだ。
ぽんやりと高見櫓(タカミヤグラ)からその様子を見、彼を目で追い眺めていた。
突然彼がばっとこちらを見上げたので、目があった。嬉しくて舞い上がる。気付いてくれたのだろうか。
「おぉ真帆!今、帰ったぞー!」
叫んだと同時にぶんぶんと手を振ってくれた。
まるで子供みたいに。
さっきの厳つい男達を従えてた時とは大違い。
それが嬉しくて思わず、ふふっと笑ってしまった。
すぐに、袖がめくれ落ちるのも気にせず手を振りかえす。
手を下ろし、ゆっくり、ゆったりと歩いてこちらへ向かってくる。
やぐらから急いで駆け降り…、と言っても私は着物である上、無駄に高い城壁に作られたやぐらであるため地上に着くには時間がかかってしまった。
階段を駆け降りたその先にニッコリと笑う彼が佇んでいた。
トクン。
思わず胸が跳ねる。
「元親兄様っ!おかえりなさいませ。」
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