「ようこそ、長曽我部…元親君。良く来てくれた。」


指定された場所へ着くとそこには一人の男が佇んでいた。

鬱蒼と背の高い木々が生えている森が開けた場所だったので月明かりが差し込み陰影をくっきりとつける。
「松永久秀っ、なんでてめぇがこんなところに居やがる?」

その男は海賊の間でも同業の臭いを感じさせると古今東西の宝を手段を選ばない方法で収集することで有名だった。


「愚問だな。兄(ケイ)に質問する権利などないのだよ。これが、見えないのかね?」

パチンと男が指を鳴らすと一本、背の高い木が倒れてきた。それと同時に目を見張った。月明かりが新たに差したその先、両手をうしろに回され木の高い位置に縛られている真帆の姿があったのだ。

「元親兄様っ!」

発作を気にしてか余り大きな声ではなかったが、意識はあるみたいだ。

「真帆っ、…てめぇ松永っ。」

真帆から男へ視線を移し睨みつける。

「はははっ、ただ宝を盗むだけではつまらないだろう?少しこういった余興があってもいいではないか。」
彼は当たり前だとでも言うように見下す様にこちらをみている。

「宝ならいくらでも持って行け!すぐに真帆を解放しろ。」

冷ややかな微笑みで。

「ッフ、ハッハッハッ。兄(ケイ)は素直な男だ。実に…救い難い。まるで興味がないのだよ、そんなつまらない宝には。」

「てめぇ、何が言いたい?」

相手ペースの会話はじつにやりにくい。
自分の機嫌が悪くなっていくのがわかった。


「兄が私に勝てば彼女を返してやろう。ただし……、兄が負けた時には彼女の命と宝をいただこうではないか。」

こいつを倒せば、それで真帆が助かるならば。


「受けてたってやる。」


間髪入れずに地面を蹴り振りかぶりながら間合いを詰める。

「そんな足で、私に勝とうとは殊勝なことだ。」


っ?


ガクンと突然膝が抜けて、その場にひざまづいてしまった。


城から港、港から城、城から山の頂上。
一体どれ程の距離を走ったか、常人には不可能と言っていい距離だった。

「実に滑稽で不様。西海の鬼の首を取ることがこんなにもたやすいとはな。」

松永は左手を腰に回した回したまま、右手でスルリと剣を抜いた。


元親は肩で息をするほど走ったのだろうか、槍に寄り掛かるようにして立ち上がった。

「元親兄様…、私など見捨ててください。宝は兄様達が今日手に入れたばかりのものではないですか。」

大きな声は出せない。
だから余計にもどかしい。

「真帆待ってろ。すぐに助けてやっから。」

そういう元親が1番心配なのだ。自分のために戦い傷付く彼を見たくなかった。

「てめぇはすっこんでろっ!」

彼は武器を再び振り上げ斜めに薙いだ。


ドスっという骨の砕ける嫌な音がここまで聞こえてきた。

ひっ、と変な声が出てしまった。容赦はないようだ。



「鬼のシマをすき放題やってくれたな。観念しやがれ!」

「そうこなくては面白みがないではないか。」

まるで松永は愉しむかのように元親と攻防を繰り返している。


だが、状況は大分元親が押している様に見えた。


また一撃が松永の脇へ入ったというのに、彼は吐血しながら笑っている。不気味な笑みは異常ささえ感じさせた。


押されているというのに奴の笑みは一体何を意味しているのだ?そこが推し量れず、最後の一撃を踏み留まっていたが、早く真帆を助けなければという思いが背中を押した。

「そろそろ終いにするぜ。」

自らも立っているのがやっとである。早く片をつけなければ。



力を振り絞り槍を振り上げ乱舞させた。松永はされるがまま、避ける余力すらないようで思い切り吹っ飛ばすと木に減り込むようにうちつけられた。

「っく、クックックッフハハ。いやはや、欲望は尽きないな。好きなように壊せばいい。実に簡単な答えだ。」

何かが外れてしまったかのように松永は笑い出した。まるで何かを悟りうれしくなったかのように。

「私の負けを認めよう。
兄の彼女を想う強さはよくわかった。それに敬意を証して…」


パチンと松永は長く細いしなやかな指を鳴らした。


その瞬間、真っ暗だった森が朱色に染まった。

めらめらと巨大な炎が、松永を始め、真帆の縛られているきすらも包み込んだ。

「真帆ーー!!松永ぁあぁ!てめぇふざけやがって!!」

「美しいものは壊してこそ真の美しさを見いだせるというものだろう?ッケホ。」
喋りながら血を口から吐き出す。なおも喋ろうと口を開いた。

「彼女を返すとは言ったが、…生きて返すなどとは一言もいってはいないのだよ。」



もうあの男の声は聞こえていなかった。
真帆の縛られている木へ駆けよりどうにか真帆を降ろそうと必死だった。

「元親様、お止めください。真帆は大丈夫です。このままではお宝が…」

松永の足元に放置されたままの宝にも火の気が迫っていた。
下手をすれば元親まで焼け死んでしまう。


「宝なんざどうでもいい!お前が1番大事なんだよ。」

縄が解ける感触とともにスルリと落ち、腕を広げた元親の腕に収まった。


間一髪、火の気にやられることなくその場を離れた。

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