そして一週間が経ちホワイトデーはやってきた。





(いけない…もう10時じゃない…!)





腕時計を見ながら海希は焦っていた。
小走りに合わせてヒールの軽やかな音が響く。

約束の時間は9時半。
何があっても彼との約束は守り続けていたから、正直今日の仕事は酷かった。
部長の命令だから断るに断れなかったけど。






(今日くらい早く終わりたかった…)






皆が私を評価してくれるのは嬉しいし
仕事が貰えるのも嬉しい。
でも本当は私だって…時間が欲しい。
もっと彼との時間が欲しい。






 

「――ラストオーダー10時…」






レストランの看板を一瞥して中に入っていくと
客の姿はなく閑散としていて。






「元親…?」





モノトーンな店内は淡いライトに照らされていた。
先に行ってるとメールが来ていたから
見回しても居ない今に
不安が込み上げてきた。








「元親…っ」





ケータイを開いて電話をかける。
何かしないと泣きそうで。
心細さに押し潰されそうで。

今まで当たり前のように彼がエスコートしてくれた。
デートだけじゃなく恋愛関係は。

頼っていいのかと不安で今まで自分でやってきたから
甘えたくても、素直な気持ち言いたくても躊躇って。
でも皆と仲良くなりたくて。






「ちか…っ」





でも彼だけなのだ。
一緒にいるとそれだけで気が楽になるのは。



私にとって彼は特別、とても大切な人――――。








呼出音が止まらなくて。
閉店時間が迫る。
どうすればいいのか分からなくて涙だけが込み上げてきて。







「!ち…」




―――キ"ュッ!
繋がった瞬間だった。
後ろから強く抱き締められて。






「馬鹿野郎」



「ち、か…」



「遅くなりやがって…」




きゅっ、とケータイを持ったまま海希を抱き締める右腕。
力を強めて。





「ごめんなさい…」

「いや、」









此処にいてよかった







そう言ってもう片方の腕、左手を目の前に持ってくる。
その手には四角い箱を提げていて。





「?」

「開けてみな」






言われて傍にあったテーブルで開くと






「……!、花?」





カーネーションのような大きなピンクの花が入っていた。
花びらにはパールに似たものが散りばめられていて
とても…綺麗で。

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