「半兵衛さん」



元来た階段に向かう彼を呼び止める。と、ふわっと銀髪を揺らして振り向いた。



「ありがとうございました」



深く頭を下げて。今は落ち着いて言えた。
まだ残る彼の手の温度。想像以上に意識してしまっていた。



「いや、僕の方こそ出過ぎた真似をして済まなかった」



泣かせるつもりはなかったんだ。
触れるつもりも。
だが、放っておけなかった。



「いえ…!そんな、」



『事ありません』、と最後まで言えずに。
互いに沈黙が降りる。








「浅波君/半兵衛さん」



まさかの同時に呼び合う。それが再び2人の間にえも言われぬ空気を作り出す。





「先にどうぞ」

「いや、僕のは大した事じゃない。
先に言ってくれたまえ、浅波君」




あの笑顔でそう言う。柔らかく、何処か淋しげなでも温かい――私がつい引き付けられる笑顔に甘えてしまう。





「――また会えますか?」



一瞬呆気に取られ見つめてくる彼。でも直ぐに表情を緩め微笑んでくれる。





「君が望むなら」



踵を返す彼。思わずあの、と声を掛けた。




「半兵衛さんの言いたかった事って…?」



「ああ、それは…――」

また逢える時まで
(君がもし望むなら)
(僕が力になりたい)
(一緒に合格しよう)



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