キーンコーンカーンコーン…――



「浅波ー!」

「んー?」



聞き慣れた声。タッタッタ…と軽い足取りで隣に並んだのは同じクラスの友達。私と同じく今年受験生という看板を背負った子。



「今日も図書館行く?」

「うーえっと、今日はいいや」

「え?どこか行くところあるの?」



きょとんとして私を見つめる彼女。それは無理もないだろう。
最近の私は放課後のチャイムが鳴ると、図書館に籠もる。それをまわりの友達は分かっている。受験生だから。
だけど今日は…違う。



「…上?」



私が人差し指を立ててみせると、不思議そうに呟いた彼女。



「今日は」






屋上行こうと思って――…














ァ―――…




風が頬を、肌を滑る。春らしい陽気を醸す風、温度、音。屋上のフェンスに寄り掛かりながら空を、蒼く澄んだ空を見つめる。

結局一人で此処に来た。何時ものようにあの子と図書館で勉強するのもいいと思った。けど、



(A判定…)



彼女は今の段階で志望校判定がAだった。
A。確かに頭が凄く良い。凄く。一年の時から勉強も部活も両立して、こつこつ頑張ってた。その結果はしっかりついてきてるんだと思う。

私も勉強はそこそこやってきた。赤点とか…それだけは避けなきゃならないし…。
成績?うーん。苦手科目と得意科目?好きと得意って一緒って事で…。
――こんなそんなで勉強はあまり好きじゃない。正直面倒臭い。
でも、そうも言ってられないのがまた本音。勉強しなくちゃならない、それが今年の私。



(…とか思ってたんだけど、)



図書館に通い始めた、実際勉強するようになった。
それなりに環境も整ってる。図書館っていい!って思う。それでも



(行き詰まる…)



静かであったかくて周りに学生さんもいて勉強してて――自分もやろうって思ってやってたけど、やはり行き詰まるようで。
最初は勢いでやれても、途中で絶対プツリと集中切れる。
あそこは沢山本がある。私は本を読むのが好きだから集中切れると色々探し始めて、気になって、結局荷物纏めて本屋に行って物色して――気付いたらもう夜…なんて事も。
あの子と私は互いに離れた席で勉強してるから、きっとあの子はそれを知らない。

今日は何時にも増して億劫だった。図書館の空気より外の空気を吸っていたい。真っ白な天井より澄んだ空を見つめていたい。シャーペンが紙を走る音より運動部の掛け声、鳥のさえずりを聞いていたい――…

ちょっとの間頭を空っぽにして一人“自然”に溶け込んでいたい――なんて、人には言えないような事を考えてみたり。






「……ふうー」



ぱち、と目を開けぐっ、と背伸びをする。
なんかすっきりした。たまには深呼吸して外の空気を吸うと見えるものが変わる気がする。




「ようし、なんか頑張れる気がしてきたっ」



オレンジ色に輝く夕日を見つめながら目を細める。久しぶりにこんな景色を見た。何時もならこの時間は建物に籠もって、シャーペン持って、それで――「君」




無意識だった。
私はその声に引き寄せられるように後ろを向いた。
そこにいたのは




「貴方は…」

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