チュンチュン…



なんと長閑なのだろう
人目を気にし迷い、悩みに明け暮れていた日々は嘘のよう
女同士の確執に気を揉み
望みもしない意地の張り合いに巻き込まれる事もなくなった



元親様に連れ出されたあの日、船は戦に巻き込まれた。
彼は何も言って下さらなかった。
相手が何処の者か、も。

戦は勝った。
だがその後私は婚姻を破棄され
家に帰される事になった。



そう…私と彼の繋がりは絶たれたのだ。






「亜希…その桜を」

「はいはい…お待ち下さいませ、母上」





婚姻関係はなくなったが、元親様は私の一族を滅ぼす事はなかった。
一族の領は彼と同盟を結んでいる大名達に囲まれていた。
だが私達の領地が脅かされる事はなく
変わらない穏やかな日々を送れていた。




「あっ…」




ふわっ…と花が浮かんで。
掌に乗せた桜は飛んでいってしまう。




「あら…」

「取って参りますっ」

「良いのですよ亜希…!」




制止も聞かずドタドタと走って。
何故だろう、諦めたくなかった。
一度手に取った桜の花。
でもそれはまだ、見えるから。
ひらひらと舞い踊る桃色の華を追い掛けた。





「待って…!」




ふわっ…
ふと風が止み、華はゆっくり落ちてくる。
立ち止まって両手を差し出した。
そうすればその中に収まってそっと包んだ。






「よかった…」





胸元に引き寄せ呟けば
風がまた吹いてきて







―――ザッ…






“音”が聞こえた気がして









―――ザ







「……?」







顔を上げた










「亜希」










どうして












「元親様…?」











どうして―――…










―――ギュッ


「………!」

「済まなかった…っ、亜希」






駆け寄った彼に私は抱き締められていた






「元親様なのですか…?」






何が何だか




分からなくて





涙が止まらなかった







あぁ、と頷く彼






これはどういう事なのだろう





どうしてなのだろう







「お前を迎えに来た―――」






向き合った彼は私の知る彼のままで




優しく髪を梳いてくれた。

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