あれから幾日経っただろう。
四国は平定された。

元親様は私を覚えて下さっていた。
あの日は夜で泥だらけだった故に
私が武家の者とは分からなかったらしい。
それでも心配なさってくれていた―――とても嬉しかった。

私もずっと彼を忘れられなかったから
たとえ政略結婚でも傍に居れるだけで幸せだった。

そしていつの間にか私達は
恋に落ちていた。




「元親様に皆様、お茶を入れてきまし…あっ」

「うぉ!?」

「「「亜希さん!!?」」」




派手に転け沢山の湯呑みが宙に浮いて。




―――ぱふ、
だが痛くない。
元親様が受け止めてくれて。
割る音もしない。
部下の方々が掴んでくれて。




「「「よ、よかった」」」

「…と、危ねぇ」


















―――コトッ…



「申し訳ありません…!!元親様」




湯呑みを置いた彼に深々と頭を下げれば
ん?と顔を向けてきた。




「またご迷惑―――」



ぱふっ…
顔を上げた私の頭に手が乗って。
わしゃわしゃと撫でてくれた。
それはニッと太陽のような笑顔。




「気にすんな」











優しくて




優し過ぎて何も言えなかった












元親様はどうしてこんな優しいのだろう。
側室等他にも大勢居る。
皆私より器量良く美しい。

















どうして恋人になれたのだろう―――。










「………」

「―――これは亜希殿、御機嫌麗しゅう」

「春蘭様」



急ぎ頭を垂れて。
元親様の正妻、春蘭様。
美しく気品あり、高位な家柄の御方。
私とは比べるのも恐れ多い人。




「お顔が優れぬよう…ご自愛なされませ」

「勿体無きお言葉…」




彼女はふっと笑ったのだろう。
行ってしまわれたのを確認すると
私の心は苦しさで一杯になった。




どうして






「どうして……」




私は此処にいるのだろう―――。







恋人である私は側室。
しかしそれ以上の存在、正妻。

私の知らないところで元親様と春蘭様は二人だけの時間を過ごしている。
それはきっと“意味のある時間”

私とは違う“特別な時”






空を仰いだ。
星が幾つも瞬いていて。
だがどれも遠く感じる。

輝くそれは勇気をくれるのに届かない。
まるであの方のよう。




「元親様…」





呼んでも声は消えていく
静寂に揉み消されていく




虚しさだけを残して―――。

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