私は出来損ないの女だった。
そう、分かっていた。

武芸に馬術、茶道…
何を教えられても上手くいかない。
父上にも母上にも、皆に迷惑をかけ
出来ない自分が
だが一国の姫である以上出来なければならない定めに心底嫌になっていた。

だからあの日家を抜け出した。







こんな自分が嫌で


親身になってくれる皆に申し訳が立たなくて





私は逃げた






一国の姫である事から

縛られる事から――――――。









































「亜希…よくぞここまで耐え抜いた。
そなたは私達の誇りだ」

「そのような事は御座いません、父上」

「泣いてばかりであったそなたが斯様に大きくなられて…
私は幸せです」

「母上…」

「亜希…許しておくれ―――!」




私を抱きしめる二人にそっと寄り添って
目を瞑った。











“政略結婚”
この時代ではそう珍しい話ではない。
私もまたその一人。
力のない私の一族は条件をのむ以外道はなかった。
争いを好かない父母が民を守る、唯一の方法だったのだ。














怖い
嫌だ
行きたくない―――。



心は正直だった。
家を離れる事を必死に拒んでいた。




「………」




『あと少し待っててくれな』




ギュ……



助けてくれたあの方。
優しく抱きしめられて
安心させてくれたあの声があったから
私はここまで来れた。

頑張ればまた会える

会って礼を言いたい

言い聞かせれば怖さが勇気に変わってくれたのだ。




そしてなによりも今度は


しかとそのお姿を拝見したい―――



一番の望みだった。





「…が娘、亜希に御座います」




何も見ず
何も聞かず

私は静かに頭を垂れた。

一度も顔を合わせないまま開かれた婚儀。
相手からしてみれば私等然程興味ないのだろう。
所詮側室。
教養もあり美人な他国の姫と比べれば
私はほんにだらしのない女。

見知らぬ土地でこれからやっていけるのか―――。





怖くて顔を上げられなかった。
畏まる手が震えていた。








「顔上げな」





どうして―――…





その声に吸い寄せられて







顔を上げた











  ―――どうして―――






それは私もだった








「アンタは……」









見開いた瞳を
目の前の人を見つめるしかなかった








「貴方様は…」
















時は偶然だった





再会、それは政略結婚という形






あの日私を助けて下さった…名の知らぬあの方は
後に西海の鬼と呼ばれ四国を平定する
長曾我部元親様だった。

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