「元親こっちだ、こっち!」







あの日俺は京にいた。



事は数日前。
突然風来坊が四国に来て、京を案内したいと言ってきた。
丁度時間も空いていたし悪くねぇなと思った俺は、京に足を運んだ訳だ。




「おい、風来坊」

「ん?」

「此処ァ」




遊女屋じゃねぇか!
声を荒らげた元親。
だが慶次は変わらずニコニコしていて。




「よし行くぜ元親!」

「一人で行ってろ」

「なんだよ元親ー、一緒にいこうぜ」

「俺は戻る」

「そんな事言うなよ、滅多にこんなとこ来れねぇだろ?
―――頼むよ元親!!」

「さてはアンタ…ハナからコイツが目当てで―――帰る」

「待てって!
だってさ、元親女の子と全く絡まねぇしいい機会「余計なお世話だってんだよ!」




―――ザッ、

その時だった。
振り向いたら女が立っていて。
遠くでつったってて。



桜の花が刺繍された着物。
金が散りばめられた上質な着物を纏った女がいた。




「もしかして…」




ここの子かい…?
慶次が聞けば柔らかく笑って会釈したその女。
小走りに横を通り過ぎ、店の脇へ消えていった。






「やっぱ京の女の子は別格だね
あの子すっげぇ可愛かった」

「……」

「元親?」





よぎった、あの表情。
苦しそうな、でもどうすればいいか分からないような顔をして
見つめられていた。

目が合えば気付いたかのように目線を逸らされた。

擦れ違い際に見えたのは
頬を跳ねた雫で






あの女









泣いていた―――?






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