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(いけない…間に合わない…!!)
肩に掛けた鞄が揺れる。
落ちないよう支えながら零はひたすら走る。
今日は待ちに待った高校の入学式だ。
しかし途中事件に巻き込まれ、かなりの時間を食ってしまった。
電車で痴漢にあいかけた女性を助けたのだ。
相手は鼻ピアスをしたいかにもチャラい男。
だったが、零はそういう人の嫌がる事をどうしても放っとけない性格で。
気付けば「その手を離しなさい」と男の腕を掴みあげていた。
男は「な、何だよお前」と声を荒らげたが、冷えた瞳と声に戦いて。
逃げるように電車を降りていったのだった。
―――そのあと女性や駅員からお礼を言われ、周りの乗客からも拍手を貰い嬉しかったのだが…なかなか抜け出せなくて今に至る。
「―――きゃあ!!」
足が縺れた。起き上がろうとしたが
「い…たっ…」
膝を大きく擦り剥き、血が溢れていて
(…っ、)
自然と呼吸が乱れていく。
時計ではあと、5分。どうやっても間に合わない。
(どうしよう)
その時、
―――キキーッ!!
タイヤが擦れる音が、聞こえた。
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