ザァ―――…





あれから何日経っただろう。
目の前には海。
穏やかな波の音が聞こえてくる。








私は元親様の許嫁だった。
―――幼少時までは。

だがそれを良しとしない者の陰謀で家は滅ぼされ
私一人だけが生き残った。
しかし私が生きているとは国に…元親様の下に届く事はなかった。
私は死んだ事にされ京に連れて行かれたのだ。



着物や飾り、身分の分かるような物は全て奪われ
ボロボロの身なりで捨てられた。
そして新田様に拾われ、遊女として育てられたのだ。
身分を隠して…。










だけど今は―――。




「―――此処にいたのか」
「元親様」




元親様が傍にいる。
私を遊女屋から連れ出してくれたのだ。
外の世界へ―――。









正しく言えば、新田様は薄々
私が只の捨てられ子ではないと感じていたらしい。
事情を聞いてあの方は
私を心から送り出してくれた。
太夫である私を無償で請け出してくれたのだ―――。





「どうした、んなとこでぼーっとして」





彼が傍にいる、ずっと夢見ていた






「海が見たかったのでございんす」






彼が見てきた海をこの目で見るのを
ずっと夢見ていた






「あちきはずっと…籠の鳥でありんしたから」









辛くて苦しくて



でも負けたくなくて





私は最高位の遊女―――太夫になった



同時に自由を許されない身にもなった






それでも年に一度、四刻だけ許された外への時間

私は娑婆を駆け回った

街で好きなものを買い、人と話し









―――貴方を探した








「四国を治めた貴方様の名は
あちきの耳にも届いておりんした」









嬉しかった

でも思った



もう手の届かない人になったと










「だからあの日、
貴方様が店の前にいたのを見て
嬉しかったのでござんす」









年に一度の自由な日に

遠く離れた貴方様が…このような場所に来るなど

夢にも思いませんでした











「でも…辛かったのでありんす」











夢見るのとそれが現実になるのでは





想像以上に違った









「私は太夫…貴方様は国主」











夕凪でなければならない自分と







珱でありたい自分







「貴方様と話していくにつれあちきは
珱でありたいと思ってしまいんした」










『そいつは死んだ』












「でも珱はもう死んでいんした」







貴方様の知る珱は―――…。










「あちきは夕凪として生きていこうと思いんした」







厳しくて辛くて泣きたい時も、支えてくれた父のような新田様
店の仲間様






今までも沢山身体を売ってきた
これからも別に苦じゃない



仲間がいるから―――…

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