腹が立った。



何故なのか。



何故こんなにも掻き乱されるのか。



「はあぁッ!!」



がきんっ!と音を立てて刃が交わる。
順調だった、進軍は回数を連ねたが確実に成果が見えていた。しかしそれは相手方によって引き起こされたも同然の―――つまりは誘い込まれていたという事。
気付けていたであろうありきたりな策、何故疑いもしなかった?



「ha!思った通りだ、やるねぇ!」



何故様々考える?



≪キインッ!≫



何故、焦って、いる。



「……っ、」



再び飛び上がる。吊り橋は波打ち、奴目がけて一合二合と振り下ろした。しかし刃はその身を傷つけること能わず、刃とぶつかるだけ。青琉は体重かけて押し付けた刀の反動で大きく飛び退いた。



「!」

「―――Are you OK?」




そのまだ地に脚つかない一瞬がやけに長く感じた。瞬間移動でもしていたのか、それとも私が気を抜いたのか考える暇もない。目の前には伊達政宗が、六爪を構えた両肩をこれでもかというくらい後ろに捻り、私に近付いていた。



「―――ぐっ!」



片手に三爪で左右から挟むように迫り、対する私は両手で一本。力でも武器でも劣ると即座に判断出来たのと、ひと足早く着地出来たのを機に直ぐまた大きく後ろに飛び跳ねた。だが完全に六爪から逃れる事等無理だった。咄嗟に刀で受け流すように防ぐと、それだけでかなりの衝撃があって一直線に崖まで弾き飛ばされた。



「―――ッ!」



何とか立て直し、硬い岩肌の地面を擦りながら漸く自分の草履は止まる。



「whew…流石魔王のオッサンにつくだけあるな。この六爪食らって立て直すとはよ」

「…………」



思わず、化け物かと言いたくなった言葉を喉の奥に閉じ込める。
話には聞いていたが六爪とはこの事か。一本でもそれなりに重い刀を指の間に挟んで、三本と三本…合わせて六本。成る程、信長公が【蛇】と称すだけはある。

政宗は吊り橋から青琉側の崖に飛び移った。



「だが抜かせたら最後、アンタに勝ち目はない。…you see?」



【蛇】か。まだ蛇ごときなら大した事はない。

私にも殺せる。だが、



「…れ」



眩しい。



「An?」



―――奴が、“眩しい”。



「黙れ!!」



自分でもありえない程早く動いていた。甲高い金属音、かかる反動。手が痛む程の衝撃も関係ない。
だが相手は六爪、先の戦闘から分かっていた通り、分は悪かった。
片腕で受け止められ、力を緩めてないにも関わらず奴の方が圧していた。



「ぐ…ぅ…!」

「…アンタ」



―――何故そこまで躍起になる?―――

と、続けられる言葉。はっとした。



「何の為に刀振ってる?」



(何の為…)



何故そんな事を聞く



「私は信長公を…」

「アンタも魔王と同じ…殺戮をしてぇのか?」

「!!…」



それが一番の誤算だった。押されながらも何とか保っていた均衡は崩れ、刀ごと弾かれる。

どんっと、冷たく硬い岩肌に叩き付けられ、力が抜けて伏した。



「くっ…!」

「そうは見えないんだがな」



痛い、これが痛みか。

近付いてくる奴を睨み付けたまま両腕でやっと上半身を起こした。あの鋭い目がさらにすっと、細まる。
見透かすような静かな、あの目。



「理由がねぇ奴にこの伊達政宗の首は取れねぇ」



あぁ腹が立つ。その私を知ったような静かな目。



私は。



「!!」



―――目を疑う。思考を閉ざすのは視界に突然入った手。刀を仕舞い、無防備に手を差し出す奴がいた。



「…何の真似だ」

「迷うなら来い」

「!?」



何故だ、止めろ。



「アンタなら喜んで歓迎する」



何故そんな事を言う。

私は貴様の敵だ。

貴様は私の敵だ。

それ以上でもそれ以下でもない。



―――消すべき相手だ。

ぎゅっと拳を握った。



私は、



「―――なめるな」



光を消す者だ――――――…。



「何…!?」



出された手をぐいっと掴むと、強く引いて体制を崩した独眼竜ごと走って崖を飛び降りる。その間自分の刀を引っ掴むのを忘れない。
吸い込むような闇が底で待つ中、宙で火薬に火をつけた。遠く聞こえるのは駆け付けた片倉の声だろう。刹那、爆発が起こり私と伊達政宗は谷底へ落ちていった。

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