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「!!」

「!!」



政宗と幸村の間で突如、風が巻き上がった。見ていた人々は「な、なな何だ!?」と言って腕で顔を覆い、政宗と幸村双方も目を顰めて風に耐える。



「―――ちょいとその勝負、次に取っといてやくれないかい?」



そして空気の流れが掻き消えたと同時に二人の間には人影が一つ増えていた。
政宗と幸村の得物を各々受け止めるのは巨大な刀剣である超刀。間に入ったのは慶次だった。



「テメェは前田の、」

「元気だったかい、独眼竜」

「はっ!そうであった」



警戒の目を向ける政宗に、明朗な苦笑を返した慶次。そして幸村は忘れていた本来の目的を思い出して慌てて刀を下ろす。



「政宗殿!此処は一度話を聞いて下され!」
「Ah?」
「そうなんだ独眼竜聞いてくれ!!」
「Ah!?」




畳み掛けるように二人が話出し、政宗は犬歯を覗かせ半目で顔を顰めた。幸村を見て、次に慶次を掬い上げるように見ると不機嫌を顔にして刀を下ろした。



「…の前に、なぜアンタがまたオレの前にいるのか説明してもらわねぇとな」

「う…、」

「それは私からご説明致しましょう」



政宗の刺すような視線の最中、現れたその声の主は慶次にとって救世主と言っても過言ではなかった。
慶次は得物を肩に担ぎ、政宗は振り向く。



「小十郎…」



コイツ…姿が見えねぇと思ったら。
成る程、既に話は通っているらしい。

政宗は自軍の野次馬の列を掻き分けて現れた腹心を不服全開の眼差しで睨んだ。しかし日頃から政宗に振り回されて出来た強面は、そう簡単に崩れない。如何にも畑仕事をしていたという頭巾に小袖と袴といった装いが、戦以外での姿を知らない幸村と慶次には一瞬の戸惑いを与えた。
そんな事には意にも介さず、涼しい顔をして近付く小十郎に、何か面倒な事になりそうだと政宗は脇目を剥いた。



◇―◇―◇―◇



「…つまり、」



政宗が全員の顔を見渡す。既に野次馬も各々の場所に戻り、縁側に座る政宗の前には幸村と慶次のみが揃っていた。



「あの時の、伊達に協力しろ…って話か」



予想はしていたが、案の定。政宗は腕を組みながら目をすっと細め慶次を見つめる。その眉はまだ明らかに皺を刻んでいた。

小十郎の話はこうだ。
―――米沢城への奇襲。そして未知の力を持った青香という者の存在は織田を警戒していた他国にも既に知れ渡り、さらなる警戒を生んでいると。織田包囲網を以前持ちかけた慶次は三度目、この奥州へ来た。



「けど独眼竜に今言っても、動かないと言われたよ」



『あの時と今とじゃわけが違う!先だっての奥州の事は気の毒だと思うさ。でもあれは警告だ!織田は今度こそ本気で国を潰しにかかる!今こそ意地も捨てて協力し合う時だ!分かるだろ…!?いくらアンタでもこのままサシで行って無事勝てるなんて考えちゃいねぇだろ!?』

『…てめぇはそんな事を言うために来たのか?』

『!』

『直でやりあってもいねぇのに知ったように言ってんじゃねぇよ。…伊達軍は政宗様の下にある。
―――今の政宗様を動かせる働きを見せてみろ』



それが出来ねぇ限り俺達は相容れねぇよ




「強行手段だった。一緒に来た幸村が引き受けてくれなかったらきつかった」



そう言って幸村をちらりと見る慶次。口は笑ってはいるが眉尻が下がっている辺り、賭けだったのだろう。とはいえ。
舌打ちをして腹心を見る。小十郎は二人の向こうで眉を寄せ、目を閉じたまま毅然と立っていた。どうも弁解をするつもりはないらしい。
そうしているうちに幸村が拳を握り締め、一歩踏み出た。



「政宗殿、今こそ一刻を争う時!先ずは日ノ本を魔王の恐怖から救い出さねば
―――我等が未来も!望みも!何も残るまい!」

「…」



相変わらず暑苦しい、と思ったのは冷静さを取り戻してきたという兆しだろうか。



「…」



沈黙が続く。小十郎は依然としてその場に立って目を閉じていた。慶次と幸村が固唾を呑み、政宗を見つめて。



「独眼竜!」



痺れを切らした慶次の声に政宗が顔を少し上げた。眉は引き続き寄っていて、その表情は堅い。



「―――No、だ」

「独眼竜!?」

「何故…!!」




取り乱して食ってかかる勢いの慶次と幸村を、政宗は平然と見返した。



「言った筈だ。…伊達は何処の指図も受けねぇと」

「そんな…」



そう言い、立ち尽くす慶次の横を通り過ぎ小十郎の隣に立つ。すると漸く小十郎は目を開き、



「明日早朝…尾張に発つ」

「えっ?」



政宗がはっきりと言った。
目を瞬いて素っ頓狂な声を上げたのは慶次である。



「遅れる奴は知らねぇ。邪魔になった時も斬るぜ」



慶次は目を丸くし、幸村はぱぁっと顔を輝かせて一歩前に出た。



「それはもしや…!」



とりあえず肩を貸してもいいという事だろうか―――?

ぐるぐると慶次の頭の中で考えが錯綜する。独眼竜は協力してくれるのか?それとも自分達が独眼竜にのる形なのか?と。



「勘違いするなよ。これは伊達がそう動くってだけだ。アンタ等にノッたわけじゃねぇ」



そんな慶次の考えを見越していたかのように政宗が付け足して。



(ああ成る程ね。伊達を先導にして進むならいいって事かい)



一先ず「ふう」と一息零した。隣で幸村が「お館様に知らせねば…!」と意気込み、得物を手に取ると直ぐ、己を連れてきた馬のいる馬房目指して政宗と反対側にその場を後にする。佐助が別件でいない今、多くの兵を明日動かさねばならない旨を武田に伝えなければならない。
そんな中、慶次の頭には信玄が過ぎった。
既に包囲網への協力を約束した武田の大将こと武田信玄は、慶次の案に友好的で今回の伊達訪問も頃合いを見計らって、幸村と共に送り出してくれたその人だ。そして今回の“何かあった時の為の二人”というのも信玄の思惑通り。



(やっぱ凄えなあ。甲斐の虎)



と心の中で呟く。三度目の正直がやっとだ。

背を向け離れていく政宗と、「背を向けるなど無用心ですぞ…!」と小声をかけながらも政宗を追う小十郎。そんな二人を見ながら苦笑は、



「独眼竜!」



笑顔に変わって。

政宗は足を止め、ふと振り返った。頭を下げていた慶次が目に映る。



「恩に着る!!これでっ…」



西は長曾我部、毛利。東は伊達、武田、上杉。
―――魔王と戦うに相当な手練が集まった。



「対抗できる…!
―――独眼竜!あんたの力、存分に奮ってくれ!」

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