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『私ごと撃て政宗!!』
一瞬の気の緩みだった。親父、輝宗が畠山義継に拉致された。
このままでは敵に逃げられる。しかもそれが川を越え城へと逃げられたら大変な事になる。身動きが取れないオレに親父はその一言を言った。
家と親を天秤にかけオレは、
≪―――ドンッ!!≫
家を取った、親父の言葉通り。
「畠山ごと親父は死んだ。オレは親父が死んでもなお畠山を恨んだぜ。
こいつが親父を拉致しなければ、こんな事にはならなかったとな」
ひくりと青琉の手が動く。
「それから戦があってな、親父の弔い合戦だ。
オレは一人で畠山の血筋を殺した。一人残らずだ」
「―――ッ、」
青琉は息を呑んだ。
一方で政宗は青琉に向けていた顔を少し伏せる。
「あの時のオレはどうかしてたぜ」
それを気付かせてくれた奴がいた―――。
『―――…此処までしてどうなると』
骸一つ一つに目を向ける小十郎だ。
『あぁ、分かってる』
その時のオレはただ突っ立って刀を持っていた。
『but…こうでもしねぇとおさまらねぇ』
『…』
近付く小十郎。
『御免、』
ぱんっと走った痛み。何が起きたか分からなかった。
駆け付けた兵も驚く中、呆然と理解したのは頬を叩かれたってことだった。
『たんと前を見られよ!!
…輝宗様は斯様な事、望んではおられなかった筈』
少なくとも御家の為、城主となられた貴方様に全てを託すべく斯様な選択をなされたのだと、私は思っております。
―――そう言われた。
『とはいえ、お諌め出来なかった私や家臣共々責任は感じております』
それでな、気付いたんだよ。
『なれどこれだけはしかと、覚えておいて下さい』
「―――…復讐に惑わされるな。もう一度冷静になって周りを見てみろ、本当にそれでいいのか」
恨んで殺した奴の死体を見てアンタは心から喜べるのか?
そいつだけで済むほどアンタの気持ちは割り切れているのか?
「…復讐の後に残るのは満足感なんかじゃねぇ。気持ちも晴れやしねぇ。
…本当は分かってんじゃねぇのか」
ひたすら、殺しても足りなくて関係のある奴等を根絶やしにするまで終わらねぇ。
最後は虚しさだけだ。
「アンタが負い目を感じるのも分からなくはねぇ。…だが、仇を討つ事が本当にお前の家族への供養になるのか、―――考えろ」
アンタの家族はアンタに復讐を望むような奴だったのか?
アンタが死ぬ事を望む奴だったか?
…違うだろ。
「……」
口を閉ざす青琉。迷っている。その目が小さく震えているように見えた。
「…―――なぜ、」
と。ふと彼女は呟く。
「お前はそんな事を…」
―――隠すように視線が脇に逸れる。
「私に…」
「…」
ああ…そうだな。だが。
―――アンタは気付いてる筈なのに、知らないふりをするんだろう。
「それは―――…」
ぎゅっと青琉の腕を握った。
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