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“分かってない”。その発言の意味が分からずに混乱と憤りで手を止めていた。



「何、だと…!?」

「オレを倒して明智と魔王の首取り合戦をする、と。…HA!ぶっ飛んだ話だぜ!」



青琉は口を閉ざし、ぐっと眉を顰めた。細くなった目が反論を言いたそうに震えている。
一方で政宗の顔は真剣なものに戻った。



「なぜ明智に乗った?アンタが疑ったように、」



『私は、本当に一族に手にかけたのが信長だという確信が持てなかった。だから早く姉を助け出し自分の目で真実を確かめたいと、思っていた』



「なぜ自分の目で確かめようとしなかった?」

「見たさ!!だから私はこうしているのが分からないのか!?」



食いつく様に青琉は返す。それからは、



「姉を殺したのが信長…それが十分の証拠だ!!!口封じの為に…殺した!!」



言葉は止まらなかった。



「許さない…、許さないッ!!私の大事なものを全て奪ったあの男を」



怒りが、悲しみが止まらなかった。



「殺してやるッッ!!」



―――怨嗟はこだまして戦場に鳴り響く。思わず兵達は手を止めて、一切の音が瞬間的に消えた。
その時、



「…魔王が、」



と、張り詰めた空気を破ったのは政宗だった。



「最低って事はな、日ノ本の誰でも知ってる。オレが知りたいのはそんな事じゃねぇ」



水を含んで硬くなった土に一歩踏み出して、青琉へと近付いていく。



「明智に利用されてる―――そうは思わなかったのか?」

「…」



青琉の勢いが僅かに弱まった。しかし相変わらず顔を顰めて政宗を睨み続けている。



『何がアンタを縛ってる?』



頭の中に思い起こしていた。

―――そうだお前はあの時も。関係のない事なのに口出ししてきて。



「―――…」



私を揺さぶってくる。違う道を、私に見せようとしてくる。
―――時間をかけてやっと割り切ったのに。

青琉は拳を握り締めた。



「…例えそうでも」



私は、と言って顔を上げた。



「復讐を選ぶ」



真っ直ぐな、強い眼差しが政宗を見つめた。それは先ほどまでの恨み辛みの色でなく、一種の決意のようなもので。



「所詮互いに利用し合うだけの存在だ。目的の為なら斬り捨てる」



感情を捨てて生きようとする人形のようで。



「復讐の完遂―――これこそが私の行動の全てだ」



政宗は目を閉じた。



「…要は、」



―――お前は憎しみに任せて殺し、自分が満足出来ればそれでいい。そういう事だな?―――



「―――ッッ!」




はっとして息を止めた。



「関係のねぇ農民も兵も、そこにいたから斬る。…そうやって今まで何人斬ってきた?」



目を見開いたまま動けなくなった。
心臓が早い。呼吸が浅い。
呼んでもない記憶が駆け巡る。



『た、助けてぇぇえっ!!』

『お願いです!!どうかこの子だけはっ!!』




女子供、老人の悲鳴。その中にいた赤子。―――皆、私が戦の中で手にかけた。

戦なんだ、犠牲が出るのは当たり前だろう。
殺らねば殺られる、生きる為に皆やっている事だろう。



(何が、)



『息子を返してえッッ!!』



(悪い)



政宗は細めた瞳を横にずらした。



「お前が殺したアイツも、今此処で死ぬ必要はなかった」

「…るさい」

「オレ一人倒せば済む話を、テメェの自己満足の為に殺しただけだ」

「煩い」

「アイツにも家族がいた…you see?お前がやってる事は、」

「黙れ」

「―――魔王と同じだ」

「黙れええぇッッ!!!」



≪がきんっ!≫

ひと際強く火花が煌めいた。懐に飛び込んできた鬼の形相の青琉の刀を受け止めながら、政宗は顔色一つ変えずに続ける。



「戦に出る時点で覚悟はしてた。アイツも家族も。だから今回は仕方なかったで済むかもしれねぇ」



止めろ。



「だがアンタが織田でしてきた事は、無関係な奴等も全て土地ごと焼き払ってきた事は仕方なかったじゃ済まされねぇ」



やめろ。



「私利私欲のために見てみぬふりをし続けた。そんなアンタが自分だけ恨まれないとでも思ってんのか?自分だけ悲劇のheroine気取りか?」

「口を…閉じろッ!!!」



青琉が一瞬で押し切って、振り回した刀を政宗は避けた。そして再びガキンッ!と激しい金属音が鳴る。政宗が青琉の懐に入り、刀を押し込んでいた。キリキリと擦れ合う刃は互いに噛み締めた歯のように、怒りを譲らない。



「例え魔王を信じていた時期があったとしても、皆殺しが不本意だったとしても織田を離れなかった。それは、」

「やめろ…ッ!!」

「アンタに覚悟がなかっただけだ。一族の仇だの関係ねぇ。自分の意思よりも周りの目を気にした。結果明智に踊らされてる」

「違うッ!!!」

「アンタは心のどこかで魔王を恐れてるんじゃねぇのか。だから明智の目的が同じと知ってアンタもそれに安心した」

「違うッッ!!!」




言葉を交わしながら、ひたすらに刀を打ち合う。



「城に手ぇ出したり仲間を殺したり回りくどいやり方なのも、真っ向から向かって来ねぇのも
―――テメェが逃げてるだけだろうが!!」

「黙れ黙れ黙れえええッッッ!!!」




ドオン!と土埃が舞い上がった。取り巻いて戦っていた兵達が「うわあああ!」と声を上げて吹き飛ばされる。そして少しずつ晴れていく其処には距離を取り、立っている二人がいた。
不意に空が轟き、雲に覆われるや一気に雨が強くなる。



「―――…お前に、何が分かる」



『ほらほら…泣かないの、青琉』



「強さも、」



『筆頭ー!』



「仲間も」



ぎりっと唇を噛む。



「帰る場所もあるお前に何が分かるッ!?
父も母も姉も、一族全てを奪われた―――私の何が、何が分かるッッ!!?」



仇を探し、強さを求め。―――ただ強くなる為だけに生きてきた。
私には、私には―――!!



「もう復讐しかないんだッ!!!」

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