27

この目、オレは知っている。暗く濁った瞳。恨み、憎しみに染まった色。
but、それ以上に―――。



「はぁッ!ッああ!!あああッッ!!!」



ガンッ、キンッと刃が鳴り響いていた。

まるで暴風のような剣戟だった。悲鳴に似た叫びと共に攻撃が繰り返される。
それを政宗が受け止めては躱してを繰り返していた。



「でああああッ!!!」



だんっと飛び上がり、刀を振り翳してくるその間、一瞬。政宗も一瞬で六爪から一刀へ武器を変え、ぶんっと風を斬る音と当時に躱した。
着地した青琉が、ものすごい勢いで振り返り政宗を凝視する。



「逃げるな!!!戦えッ!!!」



言うや瞬時に政宗の前に現れ、刃をぶつけてくるのはあの上杉謙信にも劣らない速さと言えるだろう。その速さはますます上がっていて、相手が政宗のように戦に長けた者でなければ、その忍のような身のこなしと戦い慣れた刀さばきに苦戦を強いられるのは明らかだった。
そんな二人の周りでは兵士達がぶつかり合い、この場は完全に将同士、その部下一向同士が金属音を鳴らす戦場と化している。

政宗は止まない攻撃の嵐を確実に止めては後ろに退く。しかし青琉のように自分から攻撃をすることはなく、あくまでも防ぐか往なすだけだった。
―――青琉の吊り上がった目と死にもの狂いの様子を静かに見つめたまま、目を伏せるだけだった。
それが彼女の怒りに触れ、凶刃に拍車がかかる。



「―――私はっ!!貴様を殺す!!!伊達政宗ッ!!!」



≪ガンッ!≫

そのままギリギリと刃はかみ合い拮抗した。政宗は咄嗟に両手で持ち直した刀で、その強まる力を抑え込んでいる。向かい合った先で青琉は目を見開き、声を荒げた。



「そして示すのだ信長に!!私を生かしたのは間違いだったのだとッ!!それ故報いを受けるのだとなッ!!」

「……」

「だから貴様も本気で来い!!手加減するな!!私を殺す気で戦えッッ!!」




不意に政宗の眉間に亀裂が走る。



「はあああッッ!!!」



下から捻り、跳ね上げるようにぐんっと、切っ先を上にした青琉の刀が政宗の首を狙った。しかし政宗は顎を上げ、体重を後ろに傾けて躱す。その時、上がっていた青琉の手を引いた。



「ッ!?―――」



ぐんと下に吸い寄せられる体。声にならない驚きを見せて青琉は体勢を崩した。刹那、反動で体を起こした政宗が青琉の背中に手をつく。



「ぐっ!」



どっ!と降ってきた瞬間的な重さ。奴は私をばねにし退いて着地した。

青琉は倒れて、雨水が跳ねる。



「はぁ…はぁっ、ぐっ……!くそ…ッ」



上半身を起こしながら後ろの政宗を振り返って、すぐさま距離を取る様に身を翻して着地した。
政宗はじっと青琉に目を向けたまま、構えもせずに立っている。
―――ひたすら睨み付ける青琉をただ静かに見つめたまま、口を開かないでいる。
青琉は落ち着かない呼吸を止めて、奥歯を噛み締めた。震えるくらいに強く力んで、浮かんだ疑問を



「何故…ッッ、」



見つけられない激情を声にする。



「何故六爪を抜かない!?」



響いた怒号は雨音に掻き消されていった。政宗は何も言わない。兜から雫が垂れて、鎧は濡れて鬱陶しいはずなのに。ただこの戦況が続くだけなら互いに時間の無駄だと、分かっている筈なのに。その眼差しも微動だにしない。



「くっ…」



何故六爪を仕舞ったのか。何故刀一本を選んだのか。何故―――そう静かなのか。
あの時のようにその六爪で私を追い詰めようとすればいい。あの時のように余裕を見せて私の足を引っ張ろうとすればいい。
何故、しない。

まるで見透かすような目に突き動かされて、寸時で攻撃していた。その目に僅かながらでも変化を促したいがために。
―――その眼差しを目の前から消すために。
しかし青琉の刀は政宗に届かない。
どのように攻めても受け止められた。



(ふざけるなふざけるなふざけるな…!)



何よりその眼差しがより強まっている気がして、押しているのはこちら側なのに一瞬怯みそうになる。
―――その目を見ると苦しくなる。



「今の貴様にはあるだろうッ!?私を殺す理由がッ!!」

「…」




その疑問が政宗の目をぴくりと動かしたのを青琉は見逃さなかった。そこからは堰を切ったように溢れ出てくる。



「何故手を抜くッ!?何故」



伊達の兵士を惨殺した。伊達の居城を攻めた。そんな私に、



「あの時のように本気で来ないッッ!?」



根拠のない焦り。根拠のない悲しみでいっぱいだった。



「本気の貴様でなければ意味がない…!
私は強くならねばいけないんだ!!仇を、」



ぐっと言葉を飲み込む。



「仇を討つんだッ!!!早く抜けえッッ!!」



再度激昂する。がんっ!と大きな金属音の後、ギリギリと噛み合う刀の向こうで、



「―――何故か分からねぇか」



何も発しなかった政宗がようやく喋った。と思ったら。
視界が真っ白になって、衝撃に吹っ飛ばされていた。どんっ!と受身も取れずに木に打ち付けられて、ずるずると座り込む。



「うぐ……、げほっ…げほっ」

「アンタは全然、」



分かってねぇ。

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