26

隠し通路を通り向かった途中で、誰かの気配を感じて進路から外れた行き止まりに隠れていた。直ぐに轟いたのは銃声。
―――息が出来なかった。重い鎧の音、禍々しい気配。此処にいることがばれたらと思っても、動く事が出来ないまま佇んでいた。
信長は気付いていたのか、敢えて私を放置したのかは知らない。しかし此方に来る気配はなく去っていった。
そしてやっと押さえていた呼吸を再開して、恐る恐る行き止まりを抜け、牢を見たら―――。




「…」

「きっと信長は気付いていた。私が近くにいたと。それでも私を殺さずに生かした、私は」



ぎりぎりと篭った力の行き場所が分からない。怒りと情けなさと、後悔の行き先が分からない。



「いいように利用され、飼い殺されているだけだった…ッ」



『私に恩でも売ったつもりか?身内をこのような状態で見せられ言い訳がましく、自分は動けなかったと。それで私が信用するとでも?』

『信用する必要はありません。しかしあなたは気づくでしょう、私と協力し合うのが一番の近道だと』




あの時私がもっと早い判断をしていれば、助け出せたかもしれないのに。



『あなたには持ち前の冷静さで信長公の隙を探ってもらう。代わりに私はあなたの姉君の保護に可能な限り力を尽くします』

『信長公を殺す。その過程はどうあれ私とあなたなら夢ではない。そうは思いませんか?』




私がもっと強ければ、助け出せたかもしれないのに。

…そんなこと、今更で己の甘さに腹が立つ。

青琉は力んだ手を少し緩めた。



「私は信長を殺す」



私の家族を奪い、私の居場所を奪い、私の自由を奪った奴を必ず殺して見せる。
何れ知った私を始末するつもりなら、此方から手を切ってやる。だから光秀と手を組んだ。



「もう戻らない」



もうどうだっていい。城にいることに耐えられなかった私がいるべき場所はもうないのだから。



「一族の恨みを晴らす為に、非情かつ圧倒的な力をもって殺す為に」



暗い影の内にあるその目に政宗を映して、



「―――力が必要なんだ」



そう告げる。

信長が警戒する伊達。私を翻弄した伊達。
伊達政宗。
貴様とはこうなる定めだったのだろう。相手にとって不足はない。



『今のあなたでは信長公を倒せない』



―――もう今までの私ではないと、



「独眼竜」



貴様という猛者を超えるのは私なのだという証を。示せない限り私は。

―――目を伏せ、青琉は刀を政宗に向けた。



「前に進めない」

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