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魔王信長への復讐。そのための強さ。
あの時の私は唐突に突き付けられた事柄に納得できず、様々な理由を連ねては模索するだけになっていた。



『黙れ…何が復讐の為に、だ。それは貴様が決める事ではない…っ』



だから考える時間欲しさにそう言った自分は、今考えてみればなんと愚かだったことか。
そんな私を奴は揶揄した。



『そうですね。しかし残念ですが時間はありません』



そう言って近付いてくる奴にいつでも刀を抜ける状態にはしていた。
私が家族をなくし、織田に引き取られ、信長公から命じられた奴に戦術を教えられた頃から変わらない。ただ場数や戦の知識だけは奴より不十分だった私は、当然浮かんだ疑問を畳みかけた。

『お前は何故この事を私に話した?』
『関係無いならば、何故私に加担するような真似をする?』
『お前…、どちら側だ?』

と。そんな私の耳に入ったのは、【刺客が殺した】という青香の声だった。



『…ね?』

『…』

『彼女が言うのです。何も疑う理由はないでしょう?』



それでも信じられなかった。
ならその刺客はどうなったのかという疑問には、信長が殺して代わりに私が重用されたのだと奴は言った。
信長は私を手の内に収めるために、私の帰る場所を無くし、人質として青香を生かしていたのだと。

―――つい先だっても帰蝶の故郷を、妻の故郷を何の躊躇いもなく焼き払った頃だった。



『……』



ただ黙っているのは心苦しかっただの、信長の目が光っていただの、今になってしまった事を反省はしているだの並べられても、何の足しにもならない私は勿論聞いた。
お前は軍に反するような事を何故企てると。
奴は言った。



『私の目的は、―――信長公をこの手で殺す事ですから』




「…」

「最初は驚いた。しかし今となってはどうでもいいことだ」



光秀が信長に心酔しているのは察していた。そして信長が光秀を警戒しているのも知っていた。だから青香の事を知らずに忠を尽くしている私が信長の死角となっている今、私が信長を殺すことを望むなら手を組もうと言ってきた。



『あなたには持ち前の冷静さで信長公の隙を探ってもらう。代わりに私はあなたの姉君の保護に可能な限り力を尽くします』

『…』

『信長公を殺す。その過程はどうあれ私とあなたなら夢ではない。そうは思いませんか?』




その場はそれで終わった。最終的にどちらが信長に手をかけられるかは、奴と私の実力によるものという条件下で考えることとなった。



「私は、本当に一族に手にかけたのが信長だという確信が持てなかった。だから早く姉を助け出し自分の目で真実を確かめたいと、」



姉を回復を待ち、直接聞かなければいけないと。それまでは堪えるしかないと



「思っていた」



そんな時だった。



『青琉』

『何だ帰蝶』




「信長からの命が出た。戦に出て、私の力を見せろというものだった」



桶狭間の後、 信長公は貴様に目をつけた。裏の存在であった私を出す事での、他国への牽制―――お前を倒せば織田の刃向かう者達への見せしめにもなるというやつだ。
これを機だと思った。
それからは貴様の知る通り、織田と伊達の対立が始まったというわけだ。



「そして私が此処にいる理由、」



青琉はぐっと拳を握り締める。



「―――あの出来事が起きた」



『…』



谷底から帰還して数日のあの日は、今回のこの伊達軍制圧の為、出陣を明朝に控えていた。貴様が奥州から兵を動かしたという報せが入ったからだ。



「前日の晩、私は、彼女に会いに行った。だが―――」



そこで止めてさらに震えるくらい強く、青琉は手を握り締めて言った。



「信長が…殺したんだッ!!」

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